次に何をするのか分からない
的を絞らせない存在でいたい
「向井理はどんな役者か」と聞かれると、なかなか答えるのが難しいかもしれない。善良な一市民、冷酷な悪漢、いい加減な風来坊など、多彩な役を自然に生きている変化自在ぶりは、今や映像でも舞台でも欠かせない存在だ。劇団☆新感線45周年、いのうえひでのりの歌舞伎『爆烈忠臣蔵』では、対極的な二役を演じることに。その化けっぷりを、より堪能できそうだ。
物語を本筋へと引き戻す
大事な役割を全部託された
編集部(以下・編) 新感線作品の出演は『髑髏城の七人』Season風、『狐晴明九尾狩』から3本目ですが、2回目に呼ばれた時がうれしかったと言ってましたね。
向井(以下・向) 『髑髏城』は、僕がそれまで経験したことがないほど大きな舞台で、不慣れなことが多かったです。「これで俳優を辞めようかな」と思うほど追い込まれたし、正直自分の中では納得できていなかった。だから「またやろう」って言われた時は安心しました。(脚本の)中島かずきさんは俳優に当て書きをされるんですけど、『狐晴明』の時は、僕がどういう人かを見抜かれたんでしょうね。割と初日で褒められて、リベンジできたと感じました。
編 どういう部分を見抜かれたのでしょうか?
向 具体的には分からないですけど、『狐晴明』と今回の作品で共通しているのは、ストーリーテラーの部分が大きいことです。状況を説明して整理したり、話が飛んでいきそうになった時に引き戻すとか。今回も、小池(栄子)さんが真ん中でぐるぐる物語を振り回し、歌や踊りや立ち回りでばーっと話が広がった時に、また本筋にぐっと戻すという役割が大きいです。
編 「超重要な役ができる」って見抜かれた、と。
向 かずきさんからは「大事なことは向井君に全部任せたから、全部やってね」と……なんちゅうプレッシャーをかけるのかと(笑)。僕は天外という作家と、采女という若年寄の二役を演じますけど、一人は芝居を作って、一人はそれを圧力で抑える側。天外の方は、芝居を作る人たちの思いが込められた大事な役だと思うし、采女もそんなに悪者じゃなくて、芝居を潰すことに執着する理由も分かります。あと今回は「いのうえ歌舞伎」には珍しく、誰も死なないんです。(早乙女)太一君なんか「一人も殺さなくていいんですか?」って、変な悩みを抱えていますよ(笑)。
「お芝居上手いですね」は
ちょっと違和感がある言葉
編 今まで殺し屋的な役が多かった反動が(笑)。向井さんは「芝居が上手いと言われないようにする」というのを、心がけていると聞いたのですが。
向 きれいに踊るとかはテクニックが必要になるけど、演技はテクニックだけで舞台に立つと、悪目立ちする気がするんですよ。それとある種、プライドだと思います。だって、大谷(翔平)選手に「野球が上手いですね」って、誰も言わないじゃないですか?(笑)それと同じで、役者が「お芝居が上手いですね」って言われるのは、僕としてはちょっと違和感がある。
編 では逆に、言われたらうれしい言葉は?
向 最近小池さんに「つかみどころがない」って言われました。いろいろな役をやってるからだと思いますけど、確かに(舞台で)ハリー・ポッターと(映画で)諸葛孔明を掛け持ちしてたから、訳が分からないことをしてますよね。
編 でもそれは、化ける職業の人としては褒め言葉ですよね。
向 そうですね。あと自分の中の理想としては「物まねされたくない」というのがあります。それをバカにしているわけじゃないんですよ。物まねって、特徴を増長させるわけだから、そこで球種を絞らせたくないんです。すごい豪速球とか変化球みたいなことはまねされやすいけど、球種がいっぱいあったら的を絞れない。「あ、今度はこんなコースで来るんだ」っていうのを、面白がってもらえるんじゃないかなと思います。
編 そう言われると、今回は二役とも、どんな球種か想像できなくて楽しみです。ちなみに、関西に来られることはありますか?
向 関西はよく来ますね。小学校の時は、父親が和歌山県出身なんで、白浜によく行ってました。最近だと、吹田です。
編 吹田?
向 大阪の人は吹田って言うと、みんな「え?」って反応しますよね(笑)。ガンバ(大阪)のスタジアム(パナソニックスタジアム吹田)があるんです。今回の大阪公演でも、新感線の人たちに教えてもらって、いろんなところに飲みに行くと思います。関西は料理がおいしいから、公演中はいつも満喫していますね。
編 公演期間が長いから、たくさん楽しめそうですね。最後に『SAVVY』読者向けの、この舞台のお薦めポイントをお願いします。
向 今回は小池さんが物語をぶん回すんですけど、すごくパワフルでカッコいいので、女がほれる女になると思います。あとは女形をやる太一君が、きちんとメイクして衣装を着たら、すごいことになるだろうなあと。もちろん古田(新太)さんなどの手だれの劇団員の皆さんにも、それぞれ見せ場と魅力がある。台本を読んだ段階で「よくできてるなあ」と思ったけど、きっと実際の舞台は、エンターテインメントの極致になると思います。
Profile
向井 理
OSAMU MUKAI
1982年生まれ、神奈川県出身。2006年に芸能界デビューし、2010年にNHKの朝ドラ『ゲゲゲの女房』の村井 茂役で注目される。主な主演作品に、ドラマ『10の秘密』(TBS)、『パリピ孔明』(CX)、『ダブルチート 偽りの警官』(TX・WOWWOW)、映画『パリピ孔明 THE MOVIE』、舞台『ハリー・ポッターと呪いの子』(2022~2023年)など。
STAGE INFORMATION
2025年劇団☆新感線45周年興行・秋冬公演
チャンピオンまつり いのうえ歌舞伎
『爆烈忠臣蔵~桜吹雪THUNDERSTRUCK』
10月9日(木)〜23日(木)
大阪発のエンターテインメント劇団・劇団☆新感線メンバーが総出演する、お祭りのような時代劇。時は江戸時代の「天保の改革」の頃。役者を夢みる少女・お破(小池栄子)は、女性も出演できる「闇歌舞伎」に出合う。個性的な人々と共に、幕府の圧力をかいくぐって、名作『忠臣蔵』の上演を目指していく。
会場/フェスティバルボール
作/中島かずき 演出/いのうえひでのり
出演/古田新太、橋本じゅん、高田聖子、粟根まこと、羽野晶紀、橋本さとし、小池栄子、早乙女太一、向井 理 ほか
料金/S席16,800円、A席12,800円(共に全席指定) ほか
問い合わせ/0570-200-888(キョードーインフォメーション)
[爆烈忠臣蔵]公式HP
写真/中島真美 取材・文/吉永美和子 スタイリスト/外山由香里 ヘアメイク/宮田靖士
※この記事は2025年11月号からの転載です。記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認の上お出かけください。