それぞれの目線で選んでもらった、いま聴きたいアルバムをご紹介。SAGOSAID(サゴセッド) 、Cornelius（コーネリアス）、Pia Fraus（ピア・フラウス）、Kiana Ledé（キアナ・レデ）の新譜も。

Tokiyo Ootoがいま聴きたい

熱く上昇していく愛の気持ち

ボーカルSAGOを中心とする東京のインディー・ユニット。ダウナーでキュートなSAGOの声と、うねるような絶妙なコード感のギターがシグネチャーだ。今回のアルバムでは、ドラムに藤村頼正さん（ex.シャムキャッツ）、サポートギターに田澤 守さん（ベランダ）が加わっている。UKロックを基調としたバンドサウンドの中に、グランジのような荒々しいディストーションギターや1990～2000年代のポップを彷彿とさせるビートの打ち込みが所々に感じられて、なんだかノスタルジーな気分にもなる。誰かを愛することって、とても難しくて苦しい。おいしいものを食べていても、みんなでお酒を飲みながらバカ騒ぎをしていても、ふと心に襲ってくるざわつき。日本語と英語が混在する歌では、泣きたくなるような気持ちや混乱した感情が生まれたままの姿で表現され、私のハートをグサリと刺す。そんな時々どこか投げやりな気持ちを含んだリリックも、開放的なメロディーとストロングなバンドサウンドによってどこまでも熱く上昇していくのが、とてつもなくカッコいいのだ。

中村悠介がいま聴きたい

夢、ときどき現実のマジカルな時間芸術

昨年の『フジロック』に登場、今年6月には豪州ツアー、と既に“復活”を果たしている小山田圭吾のソロプロジェクト＝Corneliusがついに６年ぶりのニューアルバムを発表。収録楽曲はシングル「変わる消える」やMETAFIVEの「環境と心理」など全11曲46分間。なんともCorneliusにしか作れないマジカルな時間芸術、と言ってみたいポップアート作品なり。それぞれの音や声の鳴りはクリア、だけど全体は、おぼろげな世界観。それは浮遊するシンセサイザーやギターの音色か？ 配置された音のバランスか？ その響きなのか？ もやがかった時空間はコロナ禍での同時代性を表しているようでもある。夢、ときどき現実というような、少し不思議なサイエンス・ノンフィクション。ラスト「無常の世界」のただの言葉遊びでない詞世界もこれまでにない。

森 樹がいま聴きたい

淡い水彩画のような情緒の中へ

北欧エストニアで結成され、日本をはじめ世界中のシューゲイザー、インディー・ポップ愛好家から絶大な支持を受けるロックバンドの7枚目フルアルバム。深く包み込むようなギターサウンドは、ごう音でありながらドリーミーかつ柔らかな質感の聴き心地なのが何よりも魅力。メロウな女性ボーカル&コーラスワークもサウンドに溶け合うように美しく織り重なり、水彩画のような繊細な色合いを描き出すことに成功している。「Fog on the Hills」や「Cloud Winterland」といったタイトルにも象徴されるように、かすみがかった、曇り空の情緒と言えるその音像が、日常生活の中でささくれだった心をそっと癒やしてくれる。日本版のCDには、サウンドのルーツと言えるMy Bloody Valentineの初期名曲「Sunny Sundae Smile」カバーも収録。

SAVVY編集部がいま聴きたい

R&Bの真髄がぎゅっ

「リスナーの皆様にはあらかじめお断りしますが、この後に続く楽曲はいささか攻撃的です。ご注意ください（意訳）」と冒頭に告げられる本作。何が始まるんだろう? と怖いもの “聞き” たさで「次へ」ボタンを押してしまう。肝心の内容は、アルバムタイトルの「Grudges」（＝恨み）からもうかがえるとおり、煮え切らない片思いへの嫌気や、燃え上がるような慕情、狂おしいほどの嫉妬心、あけすけな情欲など……古から歌い継がれてきた恋愛にまつわるテーマを、 カースワードをふんだんに盛り込みながら描き出したもの。とはいえ、音像が昨今のR&Bマナーに沿っていて聞きやすく、またKianaの愛嬌ある声のおかげで、“攻撃的” なリリックも不思議と中和される。いつの時代も色あせない、波瀾万丈な恋路を追体験できる1枚。

※この記事は2023年9月号からの転載です。記事に掲載されている情報は掲載時のもので、記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。