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夏のコンサートだから、はじけるような楽しさを!

歌を届けて53年目の石川さゆりさんが、かけがえのない場所だと語るのが大阪[フェスティバルホール]。8月に開催されるコンサートでは、デジタル時代の今だからこそ響く楽しいコーナーを設けているのだとか。エンターテインメントを突き詰める演歌の女王、その頭の中にあるものを語っていただきました。

“昭和100年”の今に
「物売りの声」を届けます

編集部(以下・編) 関西を代表するホール[フェスティバルホール]は、石川さんにとってどのような場所でしょうか?
石川さゆり(以下・石) ステージに立っていて感じるのは、お客さまの拍手が”天から降ってくる“ということ。そして、拍手が私を包んでくださる。あと、大阪はやっぱり違います。リアクションが実に正直!
編 ステージ上からでも大阪人を感じます?
石 コンサートが終わって、どん帳が下りる時に、あるお客さまがステージに向かってこう叫ばれたんです。「さゆりちゃん、おおきに! 今日は儲かったで~!」と(笑)。「何が儲かったの?」って一瞬分からなかったんですけど、大阪の方っていうのは、お金を出してエンターテインメントを観た時に得した・損したと考えられるんだなって。だから最高の褒め言葉をいただけたんだなと。
編 損得勘定に長ける大阪人の口から出た「儲かった!」は、最大の称賛ですよね。
石 今年の[フェスティバルホール]のコンサートは、若い方にも面白く感じていただける、はじけるような楽しさのあるコーナーも用意しています。今年は「昭和100年」にあたる年。昭和と聞いて何を思い浮かべますか?
編 昭和レトロブームもあったので、懐かしさのあるものを連想するでしょうか……。
石 今ってインターネットを利用して、お買い物も手元で済ませる時代。お店に行くことが少なくなった人も多いはずです。昭和の時代って、町に物売りの声があふれていたんですよね。豆腐売りの声、金魚売りの声、『男はつらいよ』の寅さんのように口上を言いながら物を売る「啖呵売(たんかばい)」という商売の手法もあった。物売りの声、これが昭和を象徴するものだなと。だから、昭和100年となる今年、ステージでバナナのたたき売りをしようと思って!
編 発想力がすごい……! 
石 本当にバナナを売るわけではないですよ? エンターテインメントとして「さゆりの啖呵売」を、みなさんに観ていただこうと。面白そうでしょう?
編 コンサートのアイデアは、普段から意識して探されているのでしょうか。
石 そうですね。だから私、いろんなエンターテインメントに触れています。演芸場もポップスのコンサートも行くし、芝居も観る。気になることがあれば「調べてみましょ」と本屋さんへ行く。ヒントを集めるのが好きなんですよね。 

アルバイトをして通った、
中学生時代の歌のお稽古

編 興味を持ったらすぐ行動、という”行動派“なイメージが石川さんにはあるんです。というのも、石川さんは中学生になってすぐの頃、歌のお稽古の月謝代5000円を自力で稼がれていたというエピソードが有名です。
石 大昔の話じゃないですか(笑)。牛乳配達のアルバイトをしていましたね。うちは平均的なサラリーマン家庭だったので、学習塾に通わせるお金は出してあげられるけど、歌のお稽古代は出せないって言われたので。中学生ができるアルバイトって、牛乳配達か新聞配達しかないんですね。新聞は日曜・祝日関係なく毎日配達する必要があるけど、牛乳配達なら日曜日はお休みできる。そうすると日曜にお稽古へ行ける。だったら牛乳配達だな、と。
編 当時の物価高を調べると、大卒の初任給が4万6000円ほど。中学生が月謝代5000円を見繕うのは、かなりしんどかったのではと思うのですが……。
石 牛乳配達が終わらないと学校に行けないですからね。でも、毎朝2時間弱くらいだったかな? 団地の階段を上がったり下がったり、まぁ授業前の朝練みたいなものですね。

歌い手が「血」を入れて、
やっとボディは動く

編 石川さんは作詞家・作曲家の両先生から提供される歌詞と楽曲を「肉」と「骨」だと捉え、「血を流し入れる」のが歌い手の役割だと語られています。ほんと、しびれる表現です。
石 血が流れないとボディは動かない。さらに「血圧の変化」というものも、歌い手は生じさせますよね。(聴き手の)胸をキュンとさせたり、優しい気持ちにさせたりもする。
編 またも血圧というかっこいいワードチョイスに、今、私の血圧が上がりました。石川さんが血を流し入れて完成する歌は、コンサートでまた新たな変化が生じるのでしょうか。
石 そのホールに漂う「風」や「空気」というものが歌に入ってきますよね。お客さまとひとときを一緒に作るというのが、歌い手冥利(みょうり)。
編 コンサートホールは、来場者と歌を共作するような場所でもあるんですね。
石 でも、一体感が生まれた時に、もう一丁ウケるためにこぶしを粘ってみようか……みたいなことをしてしまうと下品になる。お客さまはそれを求めていないし、いやしさを見せてはいけない。お客さまには「あぁ、今日は楽しかった!」という気持ちだけを持ち帰っていただく。そんなエンターテインメントを作りたいなと思います。

Profile
石川さゆり
SAYURI ISHIKAWA
中学3年生だった1972年にドラマデビュー、翌年に歌手デビューを果たす。自立した女性を歌い上げた『津軽海峡・冬景色』を発表したのは18歳の時。椎名林檎やKREVAといったジャンルを超えたアーティストとコラボするアルバムシリーズ『X -cross-』を制作するなど精力的な音楽活動を続け、歌手生活は53年目となる。

STAGE INFORMATION
『石川さゆり コンサート2025』
2025年8月24日(日)

日本の伝統芸・バナナのたたき売りをステージ上で再現する「さゆりの啖呵売」は、ネットショッピング世代の心をつかむはず。さらに今年3月にリリースされたばかりの2曲も注目。歌詞に掛け声がある「弥栄ヤッサイ」は会場でのコール&レスポンスも楽しみで、また、河内地方にゆかりのある楽曲「棉の花」もご当地である大阪で聞くことができるかも!?

会場/フェスティバルホール
問い合わせ/☎︎0570-200-888(キョードーインフォメーション)
[石川さゆり 公式ウェブサイト]

写真/エレファント・タカ 取材・文/廣田彩香

※この記事は2025年9月号からの転載です。記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認の上お出かけください。

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