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ニューヨークから縁もゆかりもない京都に引っ越した
“よそさん”ライターが見つける、京都の発見あれこれ。

【番外編】 vol.25 どんどん変わる、ニューヨーク。

 なんと2年半ぶり。ひさしぶりに訪れたニューヨークは、「コロナ? なにそれ?」というぐらい、すっかり元どおり。慣れ親しんだ“あの街”であり、でもまったく別の街のようでもあった。
 

 週イチで通っていたスーパー、[Whole Foods Market]にはセルフレジが導入され、量り売りの野菜を購入するときの「この野菜なに?」「白菜や!」というレジ係との煩わしいやりとりは過去の思い出に。感度が悪すぎる地下鉄の磁気カードは影を潜め、改札はタッチ決済ですいすい。くっしゃくしゃの汚い現金が横行していた街中のデリはApple Pay対応でキャッシュレス。もはや現金の出番ナシ。なんていうか“大都市なのに案外アナログだった”ニューヨークが、シュッとスマートになった感。数年ぶりに再会した元彼が変貌してハイスペック化し、嬉しいような悔しいような気持ちになる。そんな感じだった。

 ニューヨーク在住者には、どんな変化があったのだろう。友人たちに聞いてみると、なにはさておき物価高。日本で100円前後のえのきだけが、9ドル(1000円超え)をマークして震えた、とか。日本の「値段は据え置き、代わりに中身を減量しました」に比べ、ニューヨークの値上げは「中身は減らします。値段は上げます」で、だいぶえぐいとも。

 別の友人たちからは、「性自認に対して、社会がより寛容になっている」との声が聞かれた。なかでも、耳にする機会が増えたのがノンバイナリー(性自認が男性や女性の枠におさまらない。She/Heではなく、Theyと呼ばれる)。「女性として結婚して夫もいるけど、Theyと呼んで」とか「ゲイで同性のパートナーあり。でもノンバイナリー」など。いまやストレートの男女カップルは、マイノリティになりつつあるらしい……。

 さて、短い滞在中に「おや?」と感知した変化もある。それは、ニューヨークが空前の陶芸ブームであること。現地の友人も、立ち寄ったヴィンテージショップの店員も「趣味は陶芸」。さっそくマンハッタンにある老舗の陶芸教室に出向いたところ、コロナのあとから生徒数が増え、ウェイティングリスト(入会希望者)は140人にのぼるそう。ディレクターの男性いわく、「コロナで自由な時間が増えたこと、他人と隔絶され、コミュニティに属したいと考える人が増えたことなどが理由」。ほかにも「コロナを経験して、もっと自分のために何かしたいと思った」とか、「スマートフォンを数時間触らない時間が尊い。自分のアイデアが形になる幸せがある」といった声も。なるほど。これは、デジタル社会とコロナがもたらした作用かもしれない。実体のないものが身のまわりにあふれ、目に見えない脅威にさらされたニューヨーカーたちは、せっせと土をこね、無心になって形を作り、それぞれのリアリティを取り戻そうとしているのだ。

 ニューヨークという街は、いつも素知らぬ顔で、めまぐるしく変容している。そうだったよ、それがこの街の原動力だし、求心力なんだよなあ!と、再確認した旅だった。

エンパイアステートビルが望める[Ace Hotel]の部屋に滞在。朝ごはんは[Black Seed Bagels]のベーグルサンド。[MoMA]でアート鑑賞したあとは、話題のレストラン[Lodi]でランチ。ユニオンスクエアのGreenmarketなど、街ブラついでにかつてのお買い物スポットを巡って、懐かしさにしみじみ。陶芸教室の見学は、[Greenwich House Pottery]にて。
著者

Nihei Aya

エッセイスト。9年のN.Y.滞在を経て、2021年にあこがれの京都へ。近著に『ニューヨークおいしいものだけ』(筑摩書房)、『ニューヨークでしたい100のこと』(自由国民社)。エッセイ本『ニューヨーク、雨でも傘をさすのは私の自由』(大和書房)など。

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この記事は2024年1月号からの転載です。記事に掲載されている店舗情報 (価格、営業時間、定休日など) は掲載時のもので、記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認の上お出かけください。
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