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ニューヨークから縁もゆかりもない京都に引っ越した
“よそさん”ライターが見つける、京都の発見あれこれ。

vol.23 千利休も愛した京納豆。

 関西人は納豆が嫌い。

 いったいいつどこで植え付けられたのか、私はずっとそうかたく信じてきた。納豆は関東のもの。納豆といえば水戸でしょ。ぐらいに思ってさえいたので、京都のスーパーで購入した納豆がすこぶるおいしく、それが京都産と知ったときは動揺した。しかも調べてみたら、「納豆の発祥は京都説」があるではないか!

 京北地方(右京区の北部)の常照皇寺(じょうしょうこうじ)には、650年以上前に開祖である光厳(こうごん)法皇が、藁(わら)に包まれた納豆を食していたことを示す絵巻が残っているという。「京都の人は、納豆が嫌いなのではなく、納豆の流通が減って、疎遠になっただけやと思います」とは、京都市に4社ある納豆メーカーのひとつ[藤原食品]の四代目、藤原和也さん。

 藤原さんによると、豆のまま食べられるものを、わざわざ手間ひまかけ発酵させた納豆は、昔はたいそう貴重な食べもので、京都の寺や御所にも納められていたとか。当時の納豆は調味料の位置付け。だし汁に味噌ならぬ納豆を溶かした納豆汁を、なんと千利休(!)が茶会で提供していたこともあるそうだ。

 江戸時代になると「京都の街中に毎日納豆売りが歩いていた」といい、市民の食習慣のひとつになった。農家の人が自家製したものを売っていたのか、小さな納豆メーカーが存在していたのか。わからないけれど、近代化とともにそうした作り手が減り、納豆が京都の街からしだいに姿を消してしまった、ということらしい。

 ちなみに納豆ごはんは、一説によると関東生まれ。せっかちな江戸っ子が、納豆を白ごはんにのせてかっこむようになったのが始まりとか。小粒の納豆は、そのためにわざわざ大豆を品種改良して作られたものだそう。だから本来の納豆とは、豆の味をしっかり感じられる大粒で、それが「京納豆」の定義でもあると藤原さんは話す。

 私が感動した納豆は、まさにその京納豆、[藤原食品]の大粒納豆だった。食べ慣れた関東の小粒納豆とはずいぶん違って、粒がふっくら大きく、食感はむっちり、大豆の優しい甘みとコクがある。臭いは控えめながら、しっかり主張する納豆だ。これ、ごはんにのせなくても、そのままでも十分おいしいのでは……?と密かに思っていたところ、「京納豆はおかずのイメージ」と藤原さんから聞いて、やはり!

 いまや京都の家庭でも、納豆ごはんが好まれているようだけれど、藤原さんは納豆単体で食べることが多いそう。しば漬けやすぐき漬けなど、酸味のある漬物を混ぜて食べると、味の組み合わせも、納豆菌と乳酸菌の相性もばっちりらしい。なるほど。近々試してみよう。

 京都で納豆が作られていることは、地元の人にもあまり知られていない。というぐらい、じつは隠れた京の名品、京納豆。日本全国のみなさんへ、あたらしい京みやげとして熱烈推薦したい。


納豆販売所はトートバッグが目印。


ほんのりビターな青大豆納豆、あずきのような色合いの赤大豆納豆、看板商品の大粒納豆など全7種類。


巨大な圧力釜で大豆を蒸しあげる藤原さん。



蒸しあがった大豆に納豆菌を噴射したらパック詰め。40度の室(むろ)で約20時間発酵させるとねばねばの納豆ができあがる。

店舗情報
藤原食品×ムトーヨータドー
  • 住所
    京都市北区長乗東町204-5
  • 営業時間
    10:00〜16:45
  • 定休日
    土・日
  • アクセス
    地下鉄鞍馬口駅から徒歩3分
著者

Nihei Aya

エッセイスト。9年のN.Y.滞在を経て、2021年にあこがれの京都へ。近著に『ニューヨークおいしいものだけ』(筑摩書房)、『ニューヨークでしたい100のこと』(自由国民社)。エッセイ本『ニューヨーク、雨でも傘をさすのは私の自由』(大和書房)など。

※この記事は2023年11月号からの転載です。記事に掲載されている店舗情報 (価格、営業時間、定休日など) は掲載時のもので、記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認の上お出かけください。

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