ニューヨークから縁もゆかりもない京都に引っ越した
“よそさん”ライターが見つける、京都の発見あれこれ。
vol.43 今日もどこかでお赤飯
京都って、お赤飯がやたら売られていません? お赤飯イコール、結婚式の引き出物。日常ではあまり遭遇しないものだったような……。という関東人の私としては、和菓子店などでお赤飯が当然のごとく売られている光景が不思議でたまらないのだった。もしや京都の人は、白飯代わりにお赤飯を食べているの?
「京都は年中行事が多く、お祭りでのお赤飯の需要も多いことが理由のひとつかもしれません」。そう教えてくれたのは、今年創業150周年、お赤飯と和菓子を製造販売する[鳴海餅本店]の鳴海力哉さん。出産祝い、お食い初めといった一般的な慶事はもちろん、寺社で執り行われる神事から、地蔵盆*、町内の運動会まで、京都ではさまざまなシーンでお赤飯が配られるのだそうだ。背景には「穢(けが)れを祓(はら)うために食べる。お祭りがうまくいくようゲンを担いで食べる。お赤飯は縁起物との感覚があります」と鳴海さん。古来より赤色は邪気をはらう色と考えられてきたことが関係しているようで、江戸時代に感染症の疱瘡(ほうそう)が流行したときも、予防と治癒を願ってお赤飯が積極的に食べられたとか。いまでも京都の商家では、毎月1日にお赤飯を食べ、商売繁盛と家内安全を願う習慣が残っているそう。人々が切実な願いや祈りをこめ、お赤飯を口にしてきた風習が、この街では綿々と受け継がれているのである。
*8月の地蔵菩薩の縁日に、子どもの成長を願って行われる町内のお祭り。



それにしてもなぜ和菓子店でお赤飯が売られているのか、気になるところ。[鳴海餅本店]も始まりはお餅屋さん。お供えものの白い小餅専門だったが、いつからか和菓子を手掛け、お赤飯も販売するようになった。もち米や小豆といった食材、蒸し器などの道具が共通していたから、との説が有力だけれど、町内のお祭りで「ついでにお赤飯も頼むわ~」との要望があり、応えるうちに商品化したのでは、というのが鳴海さんの推測。[鳴海餅本店]が店を構える西陣は、かつて機織りや染色の商いをしていた家が密集するエリア。当時はどこも商売で忙しく、お赤飯を家で炊く時間がなかった。「餅は餅屋じゃないけれど、専門的なものは店にまかせて購入する文化が、色濃く残っている地域なんです」。お赤飯が健在な理由は、そんな土地柄にもありそうだ。


ちなみに鳴海さんは、「ここ一番のときには必ずお赤飯を食べる」と言い、たとえば学生時代は部活の試合前にお赤飯で勝利祈願。いまもお祭りに参加する際には、お赤飯を食べて無事を願うという。へぇー! 京都人ならではのお赤飯の食べ方に胸熱。私もここぞ! なときはお赤飯を食べて、邪気を清め、心を引き締めて挑むことにしよう。

- 電話番号075-841-3080
- 住所京都市上京区下立売通堀川西入ル西橋詰町283
- 営業時間8:30~17:00(イートイン〜16:00LO)
- 定休日不定
- カード使用可
- アクセス市バス「堀川下立売」バス停から徒歩すぐ

Nihei Aya
エッセイスト。9年のニューヨーク滞在を経て、2021年に京都へ。著書に『ニューヨークおいしいものだけ』(筑摩書房)、『ニューヨークでしたい100のこと』(自由国民社)、『ニューヨーク、雨でも傘をさすのは私の自由』(だいわ文庫)、京都のエッセイ&ガイド本『京都はこわくない』(大和書房)など。
- Instagram@nipeko55








