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言葉の裏を考えるのが楽しくて、
人間が好きになっていってます

ピュアな空気感をまとった独特のたたずまいで、今最も注目される俳優&モデルの一人・鈴鹿央士。W・シェイクスピアの四大悲劇の一つ『リア王』で、初舞台を踏むことになった。大きな試練にもめげずに正しい道を行くエドガー役で、また新たな世界を開くはずだ。

SAVVY2025年12月号に掲載のインタビュー記事をWEB限定で本誌未掲載カットでお届け。ぜひチェックしてくださいね。

どん底に落ちても誇り高い
エドガーは芯の強いキャラ

編集部(以下・編) シェイクスピア作品は、俳優が一度は通る道と言われています。とはいえ最も重厚と言われる『リア王』に初舞台で挑戦するのは、高いハードルですね。
鈴鹿(以下・鈴) デビュー戦がオリンピック、みたいな感じです(笑)。でも相手が強ければ強いほど楽しみという、『ドラゴンボール』の孫悟空みたいな気持ちもあります。
編  「オラ、わくわくすっぞ!」という感じですね。
鈴 そうそう。しかも今回は大竹しのぶさんや宮沢りえさんといった、全員がキャプテンのような、すごい俳優の方ばかりに囲まれていて。一度しか経験できない初舞台がこんな環境で、すごく幸せだと思います。
編 鈴鹿さんが演じるエドガーは、成田 凌さんが演じる異母弟・エドマンドの悪だくみで追放されるものの、最後は父グロスターやリア王のために立ち上がるという、この作品の良心のような役です。
鈴 たとえどん底に落ちても、自分の正義や誇りを失わない、芯の強いキャラですね。狂人のふりをするとかいろいろなことがありますが、その芯の部分はちゃんと持ちながらやりたいです。あと、登場人物みんなが悲劇のままで終わっていく中、エドガーはこの先の希望のような存在でもあるんです。見た方が「わあ、悲劇だなあ」と沈むだけではなく、前を向く力を与えられる役だと思うので、そこも大切にしたいと思います。
編 『MEN’S NON-NO』モデルとしての先輩でもある成田さんとは、ずっと共演を希望されていたそうですね。
鈴 (モデルの)オーディションに合格した時、僕にトロフィーを渡してくれたのが成田さんでした。成田さんが「いつか一緒に仕事ができたらいいし、できる気がする」と言っていたと人づてに聞いていたので、やっとそれが実現……しかも密に関わりのある役でご一緒できるのが、すごくうれしいです。でもまさか、僕の方が兄役になるとは思いもしませんでした(笑)。
編 17世紀の作品ですが「これって、現代にも通じるな」と感じるところはありますか?
鈴 リア王の長女と次女は、本心とは違う甘い言葉で父の気を引きますが、そういう詐欺みたいなことって、今もあるじゃないですか? あとは自分が大変な時に、支えてくれる人と逃げる人がいて、その人間をどう見極めるか? みたいなこととか。やっぱり今も昔も、人間の社会って人間同士が作っているから、ずっと変わらない普遍的なものがあるんだな、と。だから現代の人が観ても「あ、これってあの時の出来事と同じだ」となると思うし、だからこそずっと上演され続けているんだと思います。

役者をしているからこそ
人間愛のようなものを持つ

編 俳優活動を始めて6年目。始める前と今とで、何か変化を感じたりしますか?
鈴 人間が好きになりました。『リア王』でも感じるのですが、人の言葉って裏腹なんですよね。たとえば、相手はある出来事を知っていても、僕がその出来事を知らない場合って、何か探り合うような会話になるじゃないですか? でも台本だと、言葉だけが並べられているから、その「探り合ってる」感が隠されていたりする。それを深堀りするために、日常生活でも人の言葉の裏をより考えるようになったし、人は隠しごとをする生き物なんだなと気づいたりとか、人間について考えるのが楽しくなってきています。
編 「人間を演じる」というのは、人間を知ることですからね。
鈴 そうやって人間について考えると、どんどん人間のことを好きになっていくんです。だからお芝居をするって、人間愛みたいなもの。これは役者をしているからこそ、気付けたことですね。
編 大阪公演での楽しみはありますか?
鈴 最近、SNSで大阪や京都の服屋さんをチェックしています。東京ではオンラインでしか見られないですが、大阪に来たら直接店舗に行けるので、それも楽しみの一つです。アメリカ村が気になっているので、休演日にぐだーっとしていなければ行ってみたいです。
編 SNSといえば、鈴鹿さんが撮影して公開している写真がとてもすてきで。どんな被写体に引かれますか?
鈴 反射とか、光とかがすごく好きです。あと隙間が好き。柱と柱の間に広がる景色とか、ミニチュアの世界をのぞいてるみたいで、いいなと思います。「数を打たないと、写真は分からない」みたいなことを言われたので、今は目に入ったものを、とにかくばばばっと撮影しています。自分が本当に見たいもの、写したいものを探す旅なんでしょうね。フィルム代はかかりますが(笑)。
編 では最後に、初舞台『リア王』のお薦めのポイントを、改めてお願いいたします。
鈴 演出のフィリップ(・ブリーン)さんにお会いした時に「今までにない『リア王』を作りたいんだよね」とおっしゃっていました。今回の台本を読んだ時に、歌みたいな比喩表現があるのですが、それがすっと頭に入ってきて、心にまで届く感覚がありました。「この表現の中に、何が隠されているんだろう?」みたいなところを掘っていくのが、本当に楽しみです。ぜひ皆さんにもそれを体感していただきたいですし、自分も頑張りたいと思います。

Profile
鈴鹿央士
OUJI SUZUKA
2000年生まれ、岡山県出身。2018年に「第33回『MEN’S NON-NO』専属モデルオーディション」でグランプリを受賞し、芸能活動を開始。2019年に初出演映画『蜜蜂と遠雷』での演技が高く評価され、数多くの映像作品に出演する。主な出演作品に、ドラマ『嘘解きレトリック』(CX)、映画『PLAY!~勝つとか負けるとかは、どーでもよくて~』(2024年)、『花まんま』(2025年)など。

STAGE INFORMATION
Bunkamura Production 2025
DISCOVER WORLD THEATRE vol.15 
『リア王』NINAGAWA MEMORIAL

11月8日(土)~16日(日)

退位を決めた老王・リアは、2人の姉と違って自分にお世辞を言おうとしない三女を勘当する。一方グロスター伯の庶子・エドマンドは、周囲をだまして立身出世をもくろむが……。通常は男性が演じるリアに、女優・大竹しのぶが挑戦。娘たちとの関係に翻弄(ほんろう)されて、狂気に陥る王をいかに演じるかに注目だ。

会場/SkyシアターMBS
作/ウィリアム・シェイクスピア
上演台本・演出/フィリップ・ブリーン 
出演/大竹しのぶ、宮沢りえ、成田 凌、生田絵梨花、
鈴鹿央士、横田栄司、安藤玉恵、勝村政信、山崎 一 ほか
料金/13,800円(全席指定)
チケット情報/www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/25_kinglear/
問い合わせ/0570-200-888(キョードーインフォメーション)

写真/中島真美 取材・文/吉永美和子

※この記事は2025年12月号からの転載です。記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認の上お出かけください。

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SAVVY12月号「温泉と、ホテルステイ」
発売日:2025年10月23日(木)定 価:900円(税込)