interview

課題をクリアしていきながら演技を楽しみたいです

これまでの出演ドラマや映画でも、元気なキャラがこの上なくはまる俳優・佐藤隆太。しかし歳を重ねるに連れ、シリアスで影のある役でも評価を高めている。最新主演舞台『明日を落としても』では、あの阪神・淡路大震災を経験した男性を演じることに。方言などの挑戦が多い本作や、関西を「ホーム」と感じる理由などを聞いてきた。

震災のことを描くというより
心の傷と向き合う姿を描く

編集部(以下・編) この物語では、佐藤さんが演じる雄介と、ボクシングを通じて交流する青年・ひかるの関係が、30年前の震災以前と現代の、二つの時代に分けて描かれます。
佐藤隆太(以下・佐) 雄介とひかるはどこか似た者同士で、雄介は彼との出会いを通して生きる力を見つけていきます。僕は25歳と55歳の二つの年代の雄介を演じるのですが、現代と過去を演出の栗山さんがどのような表現で交差させていくのか、僕自身楽しみにしています。
編 阪神・淡路大震災がテーマということで、当事者ではないことの迷いもあったのではないかと。
佐 最初に話をいただいた際は、確かに身構える気持ちがありました。でも台本を読んでみると、描かれているのは震災そのものではなく、人間の本質に迫る物語だと感じたんです。震災に限らず、人は誰しも人生の中で消えることのない傷や痛みを抱えている。つぶされてしまいそうな大きな傷と、どう向き合い、明日を迎えていくのか……この作品は、そうした問いを投げかけていると思います。
編 確かに誰もが多かれ少なかれ、そういう傷と戦いながら生きてますよね。
佐 僕自身、ホン(台本)を読みながら「自分だけじゃないんだな」と感じました。もちろん、それによって自分の問題がすぐに解決するわけではないけれど、誰かにそっと肩に手を置かれたような、そんな温かい感覚がありました。多くの方が共感できる部分があると思いますし、見終わった後には、心が少し軽くなって劇場を後にできるような作品になると信じています。
編 舞台が神戸ということは、関西弁をしゃべることになりますよね。
佐 はい。今回の大きな課題です。これまでも何度か方言を使った作品に出演してきましたが、関西弁は特に難しいと感じています。そして、関西の観客の皆さんは、方言のニュアンスに対する評価も厳しいイメージが……(笑)。ただ、こうした難しい課題を乗り越えることで、役や物語の世界に深く入り込むことができると思っています。役作りの第一歩として、前向きに楽しみながら向き合いたいと思います。

生で触れ合う貴重な時間
舞台への欲が増えてきた

編 雄介と自分が似ていると思う点は、何かあったりしますか? 
佐 どこか幼さが残っていて思ってることがすぐに顔に出ちゃうようなところですかね(笑)。
編 そういえばSNSで、45歳の目標として「自分の年齢と内面とのギャップを埋めていく」と書いてましたね。
佐 毎年それを言ってますし、きっと来年も言います(笑)。ただ40歳を過ぎてから、欲がなくなりましたね。「この仕事でもっとこうなりたい」ということより、わくわくする出会いが欲しいとか、関わった作品に触れた人たちの日々が、少しでも豊かになってほしいとか。そんなことを、より考えるようになりました。
編 これで出世してやる! みたいな気持ちが消えたと。
佐 いや、もともとそういう気持ちも薄かったんですけど(笑)。逆に舞台への欲は、すごく強くなりました。人と人とが生で触れ合って、エネルギーを持ち帰っていただくというのは、すごく豊かでぜいたくだなあと感じています。舞台には積極的に参加したいし、特に今回は僕の好きな[兵庫県立芸術文化センター]のプロデュース公演に呼んでもらえて、本当にうれしいです。
編 地元の劇場を「好き」と言ってもらえると、こちらもうれしいです。佐藤さんは阪神タイガースのファンとしても有名ですが、阪神甲子園球場以外に好きな場所ってありますか?
佐 梅田ですね。というのも、僕がデビューした舞台の大阪公演が[(梅田芸術劇場)シアター・ドラマシティ]だったんですよ。その時はまだ19歳で、一定の期間(出身地の)東京を飛び出すことがなかったから、すごくわくわくしました。他のキャストとごはんを食べに行ったり、散歩したりして、すっごく楽しかったのを覚えています。
編 初の長期滞在が、最高の経験だったと。
佐 うん、めちゃくちゃ良かったです。あとは阪神タイガースのファンだと、関西にどこかホーム感があるんですよ。東京だと、阪神の帽子をかぶって学校に行くと目立つんですけど、関西ではそれが当たり前だから、落ち着くところがあります。タクシーに乗ると、運転手さんに「今日は(阪神)勝ったな」って普通に言われるし(笑)。
編 今の調子だと、公演中に甲子園でクライマックスシリーズがありそうですが……。
佐 そのチケットが取れなかったという人は、こちらの公演が受け皿になります(笑)。でも本当に、じーんと心に染みる話ですし、ひかる役の牧島 輝君もかっこいい男なので、ぜひ見に来ていただきたいですね。特に劇場に足を運んだことがない方は、ぜひこれをきっかけにしてもらえたらうれしいです。舞台って、楽しいもんですよ!

Profile
佐藤隆太
RYUTA SATO
1980年生まれ、東京都出身。1999年に、舞台『ボーイズ・タイム』で俳優デビュー。2002年のドラマ『木更津キャッツアイ』(TBS)で注目を集め、2008年に『ROOKIES』(TBS)で連続ドラマ初主演、2009年に『ビロクシー・ブルース』で舞台初主演を果たす。主な出演作品に『海猿』(フジテレビ系)、『THE3名様』(FOD)、『スカーレット』(NHK)など。

STAGE INFORMATION
『明日を落としても』
10月11日(土)〜16日(木)

兵庫県西宮市の[兵庫県立芸術文化センター]開館20周年を記念して、京都在住の新鋭作家・ピンク地底人3号の戯曲を、日本を代表する演出家の一人・栗山民也の演出により上演。新神戸にある旅館を営む桐野雄介(佐藤)と、アルバイトの神崎ひかる(牧島)の二人が交流を深める姿を、阪神・淡路大震災前と震災後の時代を越えて描く。

会場/兵庫県立芸術文化センター阪急 中ホール
作/ピンク地底人3号 演出/栗山民也
出演/佐藤隆太、牧島 輝、川島海荷、酒向 芳、尾上寛之、春海四方、田畑智子、富田靖子
料金/一般8,500円、U-25 2,500円(共に全席指定)
問い合わせ/0798-68-0255(兵庫県立芸術文化センター)
[舞台『明日を落としても』公式HP]

写真/中島真美 取材・文/吉永美和子

※この記事は2025年11月号からの転載です。記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認の上お出かけください。

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SAVVY11月号「神戸・阪神間」
発売日:2025年9月22日(月)定 価:900円(税込)