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イラストレーターの久保沙絵子が、毎月1冊をピックアップして、勝手にその本の表紙を制作する企画。イラストが描き上がるまでを追いかけます。9冊目は、リチャード バックの『かもめのジョナサン』。群れの常識にとらわれず“もっと自由に飛びたい”と願うカモメの成長と挑戦を描いた物語で、世界4000万部を超えるベストセラー。

久保沙絵子/イラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチが特徴。雑誌やウエブなどで活躍中。

ジョナサンは、飛ぶことに生きる喜びを見いだしたカモメ。好きなことにまっすぐに生きる爽やかさと困難を、絵を描いている自分自身と重ねて読んだ作品です。そして、飛ぶことだけでなく、飛ぶことの意味とそれを超える次元にまで好きなことを突き詰めたジョナサンが残した意志を、後世がどう受け取り残すかというところも見どころです。忙しい毎日の中でも、大好きなことに夢中になっている時の爽やかさを思い出させてくれる1冊です。

『かもめのジョナサン』完成版
著/リチャード バック 翻訳/五木寛之
新潮文庫

食べ物を得ることに一生懸命な仲間のかもめたちとは違い、ジョナサンは飛行技術を磨くことに一生懸命です。

そんなジョナサンがいつものように、さらなる飛行の高みを目指そうと練習を重ねるうちに、ついにかもめの世界スピード新記録を樹立しました。
しかしその時、あまりのスピードに翼のコントロールがきかなくなり、海上に墜落してしまいます。

真っ暗闇の夜の海の上に浮かんで気を失っていたジョナサンは目覚めると、”もう諦めよう、普通のかもめと同じように生きよう”と、決心します。
そしてヨロヨロと海面から飛び立ちます。
全て諦めて、群れの中の平凡なかもめの一羽になろうと決心したジョナサンはとてもくつろいだ気分になってきます。
もう挑戦もしなくていいし失敗もないんだ。という気持ちです。

この気持ちは、わかるようなわからないような……。
わたしはずっと運動が苦手で、小学生の体育の授業で逆上がりができませんでした。
できるようにならないと。と思い、近所の公園で練習しましたが、やっぱりできず。
できないまま、何回か続いた鉄棒の授業は終わってしまいました。
できないまま終わってしまった。という多少の残念な気持ちは残りつつ、”もう頑張らなくて良いんだ”という気持ちが大きかった気がします。
これがジョナサンでいう”くつろいだ気持ち”なのかなと思いましたが、わたしの鉄棒は、探求したくて練習していたわけではないのでジョナサンの気持ちとは随分違うのかも、とも思います。
ジョナサンにとっての飛行は、わたしにとっての絵なので、絵をやめようと思った時に、この時のジョナサンの気持ちが味わえるのだろうなという気がします。

新聞を貼り付けた枠線を全て描きました。(前回の貼り絵はこちらから
こうやって線にすると、ここの貼り方はもう少し角度をつけた方が良かったなとか、重ねる順番を入れ替えたいなとか、直したいところがたくさん見つかりました。
なので、完璧な貼り絵を作るなら、貼り絵のパーツを配置してから一度線画にして、配置が美しいかどうかを確認してからまた貼り絵に戻り、微調整をすれば良いなと思いました。
その貼り絵を今回みたいに線画にするとなると、貼り絵をして線画にしてまた貼り絵をして線画にすることになり、結構時間がかかりそうなので、時間がたっぷりある時に次は大きな魚の貼り絵をしたいと思っています。

それぞれのパーツの模様を描いていきます。
羽の先と羽の付け根に草間弥生さんの絵のパーツを描いていきます。
これは、少し前に京セラ美術館で開催されていた草間弥生さんの個展のチラシを切って貼ったパーツです。

クチバシ部分も草間弥生さんに。
わたしは、草間弥生さんの小さなぬいぐるみを持っています。
赤いおかっぱ頭で、赤地に白い水玉模様のワンピースを着ています。
目を見開いて、切迫したようなとても良い表情をしたぬいぐるみです。
東京に行く時はお守り代わりにリュックにつけていくのですが、一度だけ同じぬいぐるみを持っている方を電車で見かけたことがありました。

切り絵のパーツ集めで新聞を切る時に、なるべく言葉と色には影響されないように切っていこうと思ったのですが、この”進化”という言葉は、あまりにもしっくりきて切り取りました。

細い三角の模様を描いていきます。
何かの値段と、送料無料の文字が書いてあるパーツです。
送料無料って、無くなった送料はどこへ……。という不思議で心がざわつきます。
送料無料、ありがたいけどちょっと奇妙な気がするので廃止されてもいいなと思っています。

普通のかもめになる。そう決心したジョナサンは、岸辺を目指して真っ暗な海上を飛んでいきます。
飛んでいるうちに、ジョナサンにピカッとしたひらめきが舞い降ります。
それは、今までの飛行で何度もしてきた失敗を打破する方法でした。
そしてついにジョナサンは、普通のカモメになることはすっかりやめて、完璧な飛行を習得します。

限界突破したジョナサンは、生きる目的を知性と特殊技術から見出すことができるということを群れのみんなに伝える瞬間に胸を高鳴らせながら岸辺へと帰ってきました。

しかし、かもめの仲間たちの反応は、ジョナサンが思い描いていたものとは正反対のものでした。仲間たちは集会をするためにジョナサンを待っていたのです。

中央に立たされ、ジョナサンが長老から言い渡された言葉は無責任な行動による不名誉な流刑でした。

生きることの意味、自由になることの目的を仲間に伝えようとしたジョナサンは、残された生涯をひとりで過ごすことになりました。流刑の崖より遠くまで飛んだジョナサンは、さらに飛行の探究へと没頭していきます。

ここで落ち込まずにまだ飛ぶ!というテンポの良さが絵本の童話みたいで面白いです。
ひとりぼっちになっても飛び続けるジョナサンは完全に自己完結した高みを目指しているのだと感じました。
かっこいいジョナサン……。

WEB連載「久保沙絵子の勝手に表紙作ります。」は、毎週水曜更新!次回は、10/15(水)公開予定です!
著者

久保沙絵子

大阪在住、雑誌やウエブなどで活躍中のイラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチの作風が特徴。線の質感にこだわり、作品はすべて一発書き! 制作は、生命保険の粗品のスヌーピーのコップで白湯を飲みながら。また、街中でスケッチすることも。もし、見かけたらぜひ声をかけてください。

  • Instagram
    @saeco2525

※過去記事は、ハッシュタグ #久保沙絵子の勝手に表紙作ります をクリック

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