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イラストレーターの久保沙絵子が、毎月1冊をピックアップして、勝手にその本の表紙を制作する企画。イラストが描き上がるまでを追いかけます。8冊目は、末並俊司の『マイホーム山谷』。日雇い労働者の街・山谷を舞台に、貧困や労働、住まいの問題を描いた作品です。

久保沙絵子/イラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチが特徴。雑誌やウエブなどで活躍中。

日本三大ドヤ街のひとつである東京の山谷地区で、ホームレスや困窮者の最後のより所となるホスピス「きぼうのいえ」を設立した山本さんの姿を取材し描いたノンフィクション小説です。
信念を持って、困窮した人を支援する側だった山本さんが心を病み生活保護自給者となり、支援される側になっていった様子は、美談とは言い切れないけれど、人間らしい現実味をありありと含みつつ、貧困や孤立は決して人ごとではないと確信した時に、福祉という観点から、どういう社会であって欲しいかを考えるきっかけになる1冊です。

『マイホーム山谷』
著/末並俊司
小学館

山本さんは、幼い頃から繊細過ぎる性格だったと語っています。
高校は、2年生の時に退学後、新たに通信制の高校に入学し卒業、その後通信制の大学で哲学を学びます。しかし、1985年の御巣鷹山の日航機墜落事故をきっかけに哲学は無力だと悟り大学を中退。
哲学が無力ならば宗教に頼るしかないと、キリスト教の教会に通いながら別の大学の神学部へ入学します。
このように、山本さんの人生は挑戦と挫折をせわしなく繰り返しています。
山本さん本人は自分には浮き沈みの激しい双極性障害の気質があると分析しています。
無謀と思える挑戦を成功させ、ホームレス、生活困窮者のための「きぼうのいえ」を設立しながらも、退任を余儀なくされ現在はケアされる立場にいること、そうした浮き沈みは幼少期からのものだったようです。
 
大学入学後、山本さんは難病と戦う子供のためのボランティアを始め、NPOの事務局長を任されるまでになりましたが、そこでの人間関係に悩み、うつの薬をウイスキーでまとめて飲むまでに苦しみ、NPOを去りました。
そこから、自宅に引きこもりアルコールに依存していきます。
うつで苦しみながら自宅に閉じこもる日々、大学時代の課題で、病気を抱えたホームレスのおじさんと知り合ったことを思い出します。
山本さんは、かわいそうだから助けてあげたい。という気持ちでそのホームレスを自宅に招きましたが、結局おじさんを路上生活から救い出すことができないまま疎遠になってしまいました。
うつ症状とアルコール依存で苦しむ中、ホームレスのおじさんのことを思い出し、自分の現状からホームレスという言葉をよりリアルに感じたことで、自分自身を救う意味も込めて、ホームレスのためのホスピスを作るという目標を見つけました。

民家が4軒並びました。

奥に電柱を描きました。
手前の電柱と奥の電柱の大きさの差から、奥行き感が一気に出ます。

アパートを描きました。
建物の上にある貯水槽や室外機なども好きなモチーフです。

歩道の線を描きました。
線の傾き加減をしっかりイメージしてから描きます。

歩道の地面と、道の奥を描きました。
この風景は、道の奥の背景にスカイツリーがどーんと見えます。
スカイツリーは1番最後に描くので、まだ我慢です。

山本さんは社会人を対象としたホスピスに関する講座で、後に妻となる美恵さんと出会います。
美恵さんは恋人を事故で亡くし、自分の人生を見つめ直そうとしたある日、そのきっかけとしてホームレスに使い捨てカイロを渡し、笑顔で「ありがとう」の言葉を受け取った経験がありました。
ホームレスに何かを渡すことでプライドを傷つけてしまうのではないかという不安がブレーキになりそうになるけれど、そんなことを思い悩む必要はないのだと悟り、迷ったら行動すればいい。という考えにたどりつきました。

ホームレスの人に対する、そんな美恵さんの言葉で、私も同じような葛藤により結局行動できなかったことを思い出しました。
京橋の、JRと京阪電車の間の広場で『ビッグイシュー』を買った時のことです。
(『ビッグイシュー』は、ホームレスの人の自立支援のために、ホームレスの人自身が販売し、収入を得る機会を得るために作られている雑誌です。1冊500円で販売され、250円がホームレスの方の収入になります。)
おじさんに1,000円を渡してお釣りを待っている時に、「そういえばまだ飲んでいないペットボトルのお茶がリュックに入ってたな、差し上げようか」と、思ったのです。
が、そうすることでプライドを傷つけたり、本当は要らなかったり、断られたりするかもしれない。という不安がブレーキになり、結局何もできずにお釣りを受け取りました。
なので、”迷ったら行動”という言葉を心にねじ込んでおこうと思います。

『ビッグイシュー』は、パックナンバーもたくさん用意されています。
ホームレスのおじさんが、『ビッグイシュー』片手に路上に立つ姿をきっと誰でも一度は見かけたことがあるはず。
お悩みコーナーやお料理のレシピなども掲載されていて、ページ数も程良く読みやすく、電車に乗る前に買って電車で読むのがお薦めです。
ご興味あればぜひぜひ。

WEB連載「久保沙絵子の勝手に表紙作ります。」は、毎週水曜更新!次回は、9/17(水)公開予定です!
著者

久保沙絵子

大阪在住、雑誌やウエブなどで活躍中のイラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチの作風が特徴。線の質感にこだわり、作品はすべて一発書き! 制作は、生命保険の粗品のスヌーピーのコップで白湯を飲みながら。また、街中でスケッチすることも。もし、見かけたらぜひ声をかけてください。

  • Instagram
    @saeco2525

※過去記事は、ハッシュタグ #久保沙絵子の勝手に表紙作ります をクリック

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