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イラストレーターの久保沙絵子が、毎月1冊をピックアップして、勝手にその本の表紙を制作する企画。イラストが描き上がるまでを追いかけます。5冊目は、伊藤ちひろ『ひとりぼっちじゃない』です。2023年に原作者自身が監督を務める映画版が公開し話題となりました。

久保沙絵子/イラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチが特徴。雑誌やウエブなどで活躍中。

小さい頃から人とのコミニュケーションがうまく取れない男性が主人公の恋愛小説です。悩みながらも前向きにいようとするけれど、どうしても思うような自分になれない中、一人の女性と出会い、少しずつ変わっていくストーリーなのですが……、恋をして徐々にすてきな男性になっていく、という単純なものではないところがこの小説の面白いところ。

初めから終わりまで日記形式で書かれていて、人の日記を盗み見るような新鮮さもある小説です。

『ひとりぼっちじゃない』
著/伊藤ちひろ
KADOKAWA (角川文庫)

この小説の主人公は、歯科医師のススメという男性。

ススメ先生は、人との会話をうまくしようとするけれど、不器用さと自意識過剰な性格が邪魔をしてしまいます。「自分は気持ち悪いと思われているかもしれない」、「話をしてもきっとつまらないやつだと思われてる」、そんな考えにとらわれて、会話中汗が吹き出し不自然な自分になってしまいます。

そうした日々の中で積もっていく心のモヤモヤを整理整頓させて、明日をより良く迎えるために日記をつけています。

日記の中で、ススメ先生は自分の感情を「下水」と表現しています。私は、雑然としたゴミ置き場に出合うと、人の心はきっとこんな感じ。と、常々思っていました。

なので、ススメ先生の「下水」と少し通じるものがある気がします。とはいえ、決して、人の心はゴミだ……。と思っているわけではありません。整理されていないゴミ置き場にはいろいろな形や色、質感があって、乾いているもの、潤っているもの、臭いもの、まだいい香りのもの、いろいろあります。隅っこに花や草が生えていたりすると、もはや完璧に人の心を表しているようだと感じます。

一輪の花を見て、「あぁこれはまさに人の心のようだ」と、思えたらすてきなのですが、まぁ現実はこんな感じかなと。

小さな折りたたみ椅子からスタートです。
まだ使えそうだけど捨てられています。

ビニールに入ったもの、ぐちゃぐちゃになったもの、ゴミ置き場は質感の宝庫です。

私は、人の日記を見たいと思うタイプです。知らない人の日記でも、読んでみたいと思います。

以前、友達が10年日記をつけている話を聞いて、「読みたいから今度持ってきて」と言うと「嫌だ、怖い。笑」と言われてしまったことがあります。ですが、この小説を読んで人の日記を読むことは大変面白いことだと改めて分かりました。

ススメ先生の日記は、起きた出来事とそれに対してスマートに振る舞えなかった自分への嫌悪感、それでも明日はうまくやろうという前向きな気持ちに至るまで、感情がたっぷり含まれていて、読んでいてとても愛しい気持ちになります。

「がんばれ!がんばれ!!」と、励ましたい気持ちになりながら読み進めていきます。

WEB連載「久保沙絵子の勝手に表紙作ります。」は、毎週水曜更新!次回は、6/11(水)公開予定です!
著者

久保沙絵子

大阪在住、雑誌やウエブなどで活躍中のイラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチの作風が特徴。線の質感にこだわり、作品はすべて一発書き! 制作は、生命保険の粗品のスヌーピーのコップで白湯を飲みながら。また、街中でスケッチすることも。もし、見かけたらぜひ声をかけてください。

  • Instagram
    @saeco2525

※過去記事は、ハッシュタグ #久保沙絵子の勝手に表紙作ります をクリック

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