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実験的作品と銘打つならば
自分も実験しないといけない

古びた精神科医院にて、一人の女が生涯を独白する。語られるのは悲惨な人生、語る相手はピエロの人形……。妖しさが充満する映画『奇麗な、悪』で一人芝居に挑んだ瀧内公美さん。物語を進めるのは主人公のせりふのみ、という狂気の映画で、瀧内さんは果敢な「自分実験」にも挑んだ。

人が悲惨な話をする時、
つらそうに語るかなって

編集部(以下・編) 瀧内さんの一人芝居、独り語りで、76分間を突破して見せる本作。心の内を読み取られないよう早口でしゃべる”牽制する語り“があれば、主人公の感情がこもった語りもある。そして声色もどんどん変わる。ひたすら言葉で魅せる、その没入感がすさまじかったです。
瀧内公美(以下・瀧) ありがとうございます。……あの女性の話って、どう受け止めました?
編 いやぁ、「おもしれー女」だなぁと。主人公が悲惨な生涯を語るわけですが、ある男のことをしゃべる時、うっとりとした語り口になるんですよね。興奮するあまり、口の中の温度が高くなっていることまで感じ取れる。だけど語られるその男って、彼女から「苦痛を搾り取ろうとした男」だという。もう、思考回路が自分と違いすぎる……ということで、「おもしれー女」。
瀧 アハハハ! おもしれー女っていう表現が関西人ならではですね! おもろい女という感想が出てくるなら、それは私にとってめちゃくが出てくるなら、それは私にとってめちゃくちゃうれしいです。あの初っ端から問いかけみたいですけど、悲惨な話をする時って、悲惨な感じでしゃべります? 私はしないと思うんです。だから自嘲しながら話したり。「私、つらいです」の語りを76分も見せられるって、どうなんだろうなぁ、と。
編 彼女の独白に耳を傾けていたら、「なんか真剣に聞いてますねぇ」というせりふであおってきたりして。その突き放す声色とか、瀧内さんのアプローチが楽しかったです。主人公に共感できる/できないというお話でもないですしね。
瀧 自分の人生で起こった悲惨な出来事を話すにしては、すごく事細かにしゃべるな、と思ったんですよ。自分の中でまだ解決してなかったら、「どう思う? どうしたらいい?」って、言葉がまとまらないじゃないですか。すらすらと語れるっていうのは、彼女の中でもう処理できてる話なんだと思って。もしくは、あの話は嘘。気を引きたいがためのフェイク、とも思ってます。
編 演じる瀧内さんも主人公を疑っていると。
瀧 「悲惨な女の話だった」以外の見方もしていただければいいのかな、と思ったりもします。

「自分を実験」するために
ラップのリズム感を応用

編 せりふに付く句読点も、例えばこの句点はどれぐらい間を詰めるか、あるいは間を開けるか。そんな細かい調整作業をせりふの一文ずつされたんじゃないでしょうか。
瀧 そうですね。大事にしたのはリズム感。あの女性がしゃべる言葉って口語ではないので、句読点通りの間で口に出すと気持ち悪く感じる。だから口語調に聞こえるよう話してみたり、逆に文語のまま口にするほうが虚構感が増して面白く作用するな、と思ったところはカッチリと言う。そんなふうに遊びながらやってみました。
編 映画のリズムを作るのは、瀧内さんのせりふのみですもんね。せりふの語尾に「…うん」という言葉を多用されていましたけど、あれがリズムを生み出していて気持ちよかったです。おそらく台本にない言葉ですよね。これは瀧内さんのリズム感覚で置いた「…うん」ですか?
瀧 私が実験的に置いたものですね。私、ラップがすごく好きなんです。ラップの合いの手とか韻を踏む気持ちよさって私の中ではありまして。
編 あの「…うん」は、「Uh」や「Yeah」みたいなラップの合いの手の応用でしたか!
瀧 自分と役をなじませる、共存させていくためには、今の自分を乗せていかないとな、と好きなラップのリズム感を取り入れてみただけなんですけれども。
編 役と同期するための手法が斬新……。
瀧 このせりふで韻踏めるな、とかやってみたりして。この映画自体が実験的作品ではあるので、何やってもオッケーだと勝手に思ってみたりもして、共演者がいないから迷惑かけないしなんて(笑)。そして実験的な作品であるのなら、自分の何を自分で実験するのか、そこまで探さなきゃいけないなと思ったんです。自発性がないと、実験として成立しないですよね。

仕事がお休みの時は
京都へ行っちゃいます

編 ところで瀧内さん、関西はお好きですか?
瀧 めっちゃ好きです。仕事がオフの時期は関西に行きます。サウナがすごく好きなんですよ。
編 サウナ目当てということは、もしかして行かれるのは京都ですか? 
瀧 よくご存じで(笑)。もっぱら京都ですね。[サウナの梅湯]が好きで、『梅湯新聞』(店内の手書き新聞)が読みたくて行くんです。あと、[VOU / 棒]ってお店ご存知ですか?
編 四条にあるギャラリーショップですね。
瀧 私、[VOU]がめっちゃ好きなんです。オリジナルグッズのキャップも持っていて、[サウナの梅湯]と[VOU]がコラボした銭湯イベント『Get湯!(ゲッチュー)』のTシャツ、あれは全色買いました。京都のあのコミュニティの方々に、もうすっごい影響を受けてるんです。
瀧 京都のカルチャースポットなお店に通われていたり、ラップがお好きだったり。瀧内さんってしっとりとしたイメージがあったんですけど、実は「ストリートの女」だったんですね!
編 ストリートの女って! でも、イメージと全然違うね、とはよく言われます(笑)。

本誌未公開の3カット

Profile
瀧内公美
KUMI TAKIUCHI
1989年生まれ、富山県出身。主な代表に『火口のふたり』(2019年)『由宇子の天秤』(2021年)など。1月17日に公開された『敵』や、TBSドラマ『クジャクのダンス、誰が見た?』などの話題作にも出演中。公開待機作は3月28日公開予定の『レイブンズ』で、浅野忠信と夫婦役を演じる。

INFORMATION
『奇麗な、悪』
2月21日(金)公開

名映画プロデューサー・奥山和由氏による30年ぶりの監督作。「言葉で作る映像空間に固執した」と監督が語るように、一人の女が誰もいない場所でひたすら独り語りをする。膨大なセリフ量、言葉だけで物語を展開していく瀧内公美さんのすごみに圧巻されっぱなしの76分。言葉の映画にのまれ、そして言葉を失う。

原作/中村文則(「火」(河出文庫『銃』収録) ) 脚本・監督/奥山和由 主演/瀧内公美劇場/アップリンク京都、テアトル梅田、シネ・リーブル神戸 ほか 
公式HP/kireina-aku.com

撮影/中村寛史 取材・文/廣田彩香 ヘアメイク/くどうあき スタイリスト/佐々木悠介

ジャケット、ニット、ドレス、スカート(以上08book)/以上08sircus、ピアス、リング(以上ISETAN SALONE TOKYO)/以上carat a その他スタイリスト私物
08book ☎︎03-5329-0801、ISETAN SALONE TOKYO ☎︎03-6434-7975

※この記事は2025年4月号からの転載です。記事に掲載されている情報は掲載時のもので、記事をご覧になったタイミングでは変更となっている場合があります。最新情報をご確認ください。

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