神戸・元町四丁目の本屋[本の栞]を営む、田邉栞さんの日々のブックマーク
VOL.21
「一度でもグラタンのことを考えてしまったら」
text and photo
田邉 栞(たなべ しおり)
神戸の書店[本の栞]、次回のイベントは11月6日(水)、
細井徳太郎さんと山内弘太さんと千葉広樹さんの
ギター・ギター・ベース・トリオです。
9.3 tue.
パートナーを玄関でボサボサ頭のまま見送る。宅配便でシャンプーの詰め替えが届くのを待って、チーズトーストを食べて出勤。家の猫が妙に大人しくて気にかかる。
注文していた『カーシェアグルメドライブ』 1 の商業版が届いた。グーグルマップにピンを立てつつ読む。自費出版のときにも同じことをしていたらしく、ほとんどのお店にすでにピンが立っていた。茨城にあるらしい[グルービー] 2 の海賊スパゲッティという、シーフードクリームスパゲッティにチーズをかけて焼いたふしぎで魅力的な食べ物の写真を眺めていたらどうしてもグラタンが食べたくなったが、わたしのなかでグラタンといえばの[めがねノンノ] 3 は定休日。近場で調べていると、老舗の[もん] 4 に理想的なビジュアルのグラタンを見つけた。そういえば行ったことないけど、どうなんだろう……行ってみたいな……と仕事そっちのけで数時間悩みつづけたが、結局一人で行く勇気が出ず、あきらめた。焼肉でもなんでもわりと一人で行けるけれど、老舗はなんとなく敷居が高い。ご近所の[ウインドワード] 5 のシーフードグラタンとマンゴーパフェに落ち着く。グラタンはあっさりしていて、手作りっぽいツナペーストが入っていて、なかなかおいしかった。でもやっぱり[もん]にも行きたいな。パートナーが帰ってきたら行こう。
外に出たついでに[ザ ミシンバ] 6 へ、ずっとためこんでいたお直しが必要な服を持って行く。気に入った服をなおしたり染めたりしながらずっと着ていけることはたいそう幸せなことだ。そのようにして服でもなんでもえらんで暮らしていたい。
家に誰もいないので(猫以外)、もうさっさと寝てしまおと布団に入り『一年前の猫』 7 をひらく。猫がなにやらしゃべりながら足元にやってきた。みじかいので読みきったが、終盤から眠気がやってきてふわんふわんふわんとしていた。猫を飼っているひととはどこかで通じあうような気がする。今これもふわんふわんとしながら書いている。
ウソ、といえばこの本のエッセイも少しウソである。生まれて初めて猫と暮らして、その日々の中で起きたことや、一年前の猫について書きながら、少しずつウソを混ぜたのだ。でも、猫の誕生日を祝うのを忘れるように、どこからがウソだったのかも今やわからなくなってしまった。というのも、ずっと子猫と呼んでいたポンズがいつの間にか三歳になっていたように、猫たちも私たちの生活も少しずつ変化して、一年前に当たり前だったことが今ではそうでなかったりするからだ。
(中略)
今日の猫たちは一年たったら一年前の猫になる。来年もたぶん私は猫たちの誕生日を祝うのを忘れてしまうけど、一年前の猫たちの小さな声やあたたかさを忘れることはないだろう。(『一年前の猫』)
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