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大津の街の至る場所で目にする、
怖いようで愛らしい鬼のイラスト。
こちらは大津絵と呼ばれるもので、
交通の要として栄えたこの街だからこそ、
日本中に広まった背景も。
そんな大津絵の魅力に迫ります。

えー!!! そんな歴史があったの?
大津絵の知られざる誕生秘話。

 大津絵とは、江戸時代初期から滋賀県の大谷・追分辺りで民衆により描き売られていた絵のこと。当時、江戸や京都への街道のジャンクション的な立地である大津は特に人通りが多く、旅人が土産品として買い、日本中に広まり人気となった。観賞用の絵として飾る以外にも、近所の人と絵を眺めながら絵のモチーフや意味を語るなど、考察しながら楽しむ娯楽作品として親しまれていたとか。さらに、江戸時代中期に入ると絵に道歌(短歌の一種)を添え、風刺画、教訓画として一世を風靡(ふうび)し、第二次ブームが到来。その後、鉄道が普及すると、お札やお守りのようにご利益と共に流通するようになったそう。
 大正時代、そんな大津絵が世界に広がる契機が訪れる。柳宗悦による民藝運動で彼が大津絵を評価したことから、民藝ブームに乗り大津絵が注目の的に。なんと、ミロ、ピカソも所有していたなんてエピソードも! 戦後も、ヨーロッパに大津絵が持ち帰られて保存されていたことが調査によって判明しており、パリやボストンで展覧会が開かれたことまであるそう。
 そんな世界の人々を魅了した大津絵の最大の特徴は、見る人が思い思いに楽しむこと。ぜひ、実際に手にと取って時代も国も飛び越えた大津絵の世界を自由に想像してみて。

一、まずはメジャーな鬼をチェック!

【鬼の寒念仏】

意味
一番の特徴は、左角が折れていること。理由は現在も不明で、「人間の姿に近づいてきたせいかも?」、「角(=我)を折って改心したのかも?」など自由に捉えられている。鬼が僧侶の格好をしていることから、偽善者を風刺しており、顔かたちは鬼のままで衣装だけ僧侶にしても無駄であるということを意味する。
ご利益
子どもの夜泣きを止めて悪魔を払う、という言い伝えがあり、子ども部屋に貼ったり、枕の下に入れたりして使われていたとか。

二、風刺画や教訓も!

【外法の梯子剃り】(げほうのはしごそり)

意味
七福神の一人である寿老人の頭にはしごを掛け、禿頭(とくとう)をそる大黒の図で、寿老人は長命の神様であり、はしごの上で頭をそる大黒は財運の神様であることから、長命より財が上にいる(=長生きより金が上回る)ことを意味し、財を追い求めることばかりでは、寿(長命)を損ねてしまうので、欲はほどほどに抑えた方が良いという意味。
ご利益
長命を保ち百事如意(=全てがうまく行く)

【雷公の太鼓釣】(らいこうのたいこつり)

意味
雷様(雷公)が、なくてはならない太鼓を落とし吊り上げようとしている姿から、どれだけ熟達したものでも、失敗はあるということを意味する風刺画。人々に怖がられていた雷公だが、このように描かれている滑稽さが珍しく、人気を得た。
ご利益
雷除け、災害除け

【瓢箪鯰】(ひょうたんなまず)

意味
口の小さいひょうたんでぬらぬらするナマズを捕らえようとするサルを頭の悪い人間として描くことで、要領の得ないこと、思慮の足りない様子を表現。発展して、ナマズを「人間の心」に見立て、人の心を捉えようとするのは非常に困難で成り得ないことを意味するようになった。国宝である「瓢鮎図(ひょうねんず)」のパロディであり、人間をサルに描き変えたことで、面白おかしく描いている。
ご利益
諸事円満に解決し水魚の交わりを結ぶ(=友人・親友を得る)

【釣鐘弁慶】(つりがねべんけい)

意味
義経に出会う前の僧兵時代の弁慶の姿。大津絵以外では、活躍後の弁慶が描かれることが多いが、乱暴だった若い頃の弁慶を描いているのが特徴。重い鐘を片手で持ち上げる姿は、ありえないほど怪力である弁慶を表し、この絵ではその怪力ぶりを面白がった。鐘は財を意味することから、金運アップのご利益が言い伝えられている。
ご利益
身体剛健(=体を強くする)、金運上昇

三、推し活もはかどっていた!

【藤娘】(ふじむすめ)

意味
意味は特になく、いわゆる美人画として人気に。モデルは実在の人物かどうか、なぜ藤が描かれたのか、藤の色がなぜ赤なのかなど、詳細は不明。
ご利益
愛嬌加わり良縁を得る

【鷹匠】(たかじょう)

意味
「藤娘」と同じく、意味などは特になく、浮世離れした鷹匠を描いたイケメンのブロマイド的アイテム。鷹匠ではあり得ないような身なりで描かれている。憧れの存在として、現実にはいない存在を描いたもの。
ご利益
利益を収め失物手に入る

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[大津絵の店]
大津絵の衰退を憂い、明治初年、三井寺参道に店を構えた大津絵専門店。趣きある古い町家を用いた店内では、肉筆短冊5,500円〜、大津絵の手ぬぐい1,430円〜など、大津絵にまつわる商品を幅広く販売する。

店舗情報
滋賀・大津
大津絵の店
  • 電話番号
    077-524-5656
  • 住所
    大津市三井寺町3-38
  • 営業時間
    10:00〜17:00
  • 定休日
    第1・第3日
  • カード使用
  • 駐車場
    あり
  • アクセス
    京阪三井寺駅から徒歩12分

取材・文/SAVVY 画像提供/大津絵の店



※この記事は2024年9月号からの転載です。記事に掲載されている店舗情報 (価格、営業時間、定休日など) は掲載時のもので、記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認の上お出かけください。
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