神戸・元町四丁目の本屋[本の栞]を営む、田邉栞さんの日々のブックマーク
VOL.16
遠くのことで苦しむよりも
会えるあなたと過ごしたい春は
text and photo
田邉 栞(たなべ しおり)
神戸で[本の栞]という本屋をやっています。
てん、という名前の猫を飼いはじめました。
当然のことながら、かわいいです。
4.7 sun.
このところあらゆることがどうにも上手くいかず、書きためている日記も濁ってゆき、それは自分のための記録としてはもちろんとても大切なものなのだけど、けして読んでいておもしろいものではない。こういうときは本を読んだりして自分でどうにかしていくしかないので、帯文で興味をひかれた、早乙女ぐりこ 1 『速く、ぐりこ! もっと速く!』 2 をめくりだした。なんだかわたしは、このひとのことをよく知っているような気がする、と思いながら読みすすめていたら、告白されて数年ぶりにきちんと付き合った男性に、いきなり恋愛感情がなくなったと言われ2カ月で振られた、という成り行きを仔細に書いた日記が載っていた。呼吸が変になりかける。わたしのことかとおもった。
そこからはもう、ぐりこさんがわたしになった。作中でぐりこさんにあたらしい恋人ができたら、なんだ、結局は幸せになって終わるのか、よかったじゃん、とふてくされ(終わるったってこのひと自身の人生はこれからもつづくのに)、上手くゆかなくなったときは悔しさで、おそらく当の本人よりも泣いた。
ひとに見限られるのが怖くて、見限った側に先まわりするのはとても簡単で、そうすればまるでちっとも傷ついていないかのように思いこめるときもあって、でもそんなの、結局ふりをしているだけなのだ。みっともない自分でも、納得がいくところまでやって、それでもだめなら泣いて喚いてすがって、また立って、ひとりで立つとぐらついて、それをするしかないんだってわかっていても、でも、それでも、まだ、どうしたらいいかわからない。
直感と勢いだけで、自分の信じた道を突き進める自分が好きだった。ほしいと思ったものに迷わず手を伸ばせる自分が好きだった。要らないと思ったものを、すぐ手放せる自分も好きだった。好きなはずだった。速く、ぐりこ、もっと速く。人生が一気に、音を立てて動く瞬間にいつも快楽を感じていた。でも、もう無理だ。苦しい。むなしい。もう今までのようには生きられない。真っ黒に塗りこめられたオセロの盤面はもう二度とひっくり返らない。完全に詰んだ。私の負け。大体、そもそも人生ってそういうものじゃないよね。もちろん恋愛も。スピード重視で行き当たりばったりにやってるだけじゃだめで、信頼とか愛情とかって少しずつ時間をかけて、ひとつひとつ相手と一緒に積み上げて築き上げていくものじゃん。その場の衝動や自分勝手な思い込みでわっと動いて、無理やりに変化を起こしたところで、それがいい結果につながるわけなんかなかった。(『速く、ぐりこ! もっと速く!』)
4.20 sat.
床に這いつくばる日々からほんのすこしの時間が経ち、ちょっとしたきっかけでけろりとしているゲンキンな自分への愛をまた取り戻す。なんだかいろいろな瞬間がかちりと噛みあって、すくいあげられ生きのびた。
その間に読みかえした『違国日記』 3 に書いてあった、わたしたちはみんなそれぞれちがう国の言葉で話すようなものだということ。言葉ですべては伝わらないけれど、わたしはやっぱり言葉にしようとすることを、それをだれかに渡そうとすることを大切におもう。そんなことをしばらく考えている。
でもまず愛するということ自体が恐怖に打ち克つ行為だろ たぶん(『違国日記』10巻)
「それは今日いますぐに決めなくていいし、明日じゃなくてもいいし、一週間後じゃなくてもいいかもしれないし、1カ月後もどうだかわからない」から、平熱で生活をやっていけたらいいとおもっている、とりあえず、いまは。
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