南米らしい叙情性と
メロウネスに満ちた秀作
☑『Oráculo』/Juan Ignacio Sueyro
*Think! Records 発売中 2,640円
アルゼンチンのネオ・フォルクローレ界わいで新世代グループとして注目されたナディスの中心人物による初ソロ作は、シンガーソングライターとしての豊かな才を発揮した美しい一枚に。カルロス・アギーレやアカ・セカ・トリオといった先人の流れを継ぐ一方で、マルチ奏者として多くの楽器を自らこなし、室内楽的な現代ジャズやブラジル音楽からの影響を反映したアレンジで紡がれた音は、近年の南米系の粋をメロウに統合したかのよう。
〈さらに、あなたへのおすすめディスクは〉
☑『Turbulent Indigo』(1994年)/Joni Mitchell
フアンが制作中に大きな影響を受けたという、アメリカを代表する女性シンガーソングライターによる1994年作。フレットレス・ベースの旋律、ジャズ的な要素の利かせ方など、聴き比べてみれば多くの共通点が見えてくるかも。
文/吉本秀純
いつ聴いても傑作なら、春に聴きたい
☑『ラヴの元型』/AJICO
*SPEEDSTAR RECORDS 発売中 2,420円
浅井健一とUAを中心に2000年に結成された AJICO。その後間もなくして活動休止するも、20年の時を経て再始動。2nd EPとなる本作は、当たり前のように鋭く、しかし時折不意を突くように優しさを見せるサウンド、そしてその緩急の狭間で淡々と紡がれていくような歌詞、その中庸が終始痛快だ。春を想起させる2曲目「あったかいね」で浅井のメインボーカルに重ねられるUAによるつぶやきのようなボーカルが、AJICOらしいシルキーな存在感で光る。
〈さらに、あなたへのおすすめディスクは〉
☑『Are U Romantic?』(2022年)/UA
歌声や音楽性のみならず、存在感そのものが常に圧倒的“他にはなさ”を放つUA。ジャンルの垣根をとうに超えた彼女が本作であえて表現する「今思うポップス(=“ネオポップ”)」の、あまりの芳醇さに1音目から酔いしれてしまうはず。
文/原田美桜
ごう音と静寂を刻む衝動
☑『Underlight & Aftertime』/downt
*P-VINE 発売中 2,750円
東京のエモ/オルタナティブ界わいから瞬く間に頭角を現し、結成3年目で昨年の『FUJI ROCK FESTIVAL』に出演したスリーピースバンド。彼らの1stフルアルバムは、印象的に鳴らされるギターのアルペジオをはじめ、静寂すらコントロール下に置いたような、研ぎ澄まされたバンド・アンサンブルに耳を奪われる一枚。その上で、はかなげだが凛と立つ富樫ユイのボーカルも大きな魅力となっている。バンドの代表曲で、8分を超える本編ラストの「13月」の緊迫感は絶品。
〈さらに、あなたへのおすすめディスクは〉
☑『LIVE IN JAPAN』(2024年)/MASS OF THE FERMENTING DREGS
downtメンバーもフェイバリットに挙げるスリーピース・オルタナバンドのスタジオライブ作品。近年は海外での評価が高まる彼女たちだが、ポップでありながら性急かつ痛快なギター・サウンドは、downtに共通するものがある。
文/森 樹