ニューヨークから縁もゆかりもない京都に引っ越した
“よそさん”ライターが見つける、京都の発見あれこれ。
大原、女ひとり、野菜を買う。
ブルックリンに住んでいたころ、毎週末、心待ちにしていたのが近所のグリーンマーケットだった。生産者が屋台で販売する採れたてのオーガニック野菜は、スーパーのそれとは別もので、色や香りに元気があって、甘みも苦みも濃く、感動的においしい。おかげで食卓は潤い、胃袋は満たされ、心までハッピーになった。嘘みたいだけど、これほんと。だから人生ぱっとしないという人は、食べる野菜を変えてみてほしい。髪型や人づきあいを変える前に。
そういうわけで、京都にもグリーンマーケットがあったらいいのになーと思っていた私だけれど、ある日、見つけてしまった。大原の野菜直売所[里の駅 大原]だ。
三千院近くにある[里の駅 大原]は、いわゆる道の駅の直売所と同じつくりで、生産者が納めた色とりどりの季節の野菜が棚に陳列され、売られている。夏に初めて訪れたとき、葉がわっさわさのパクチーや、身がぶりんぶりんの万願寺とうがらしと遭遇して、秒でしびれた。減農薬や無農薬の野菜が堂々と肩を並べているところもまた、たまらない。ひとり興奮状態で、エコバッグ2つ分の野菜を鼻息荒く買って帰った。そのまま生で、さっと茹でて。ただ焼いたり、蒸したり。そうやって食べた野菜はどれも、もう、うんまい! のだった。
ああ、[里の駅 大原]の近くに住んで、大原の野菜を毎日食べる暮らしがしたい。そんな、私のがめつい願いはついにこの秋、叶えられ(というか自分で強引に叶えた)、大原と同じ左京区に引っ越した。
それにしても、大原の野菜はなぜおいしいのだろう。調べたところ「盆地ならではの昼夜の寒暖差で、糖分がしっかり蓄えられる」ほか、「早朝に現れる霞が、ほどよい湿度となってみずみずしい野菜を育てる」とのこと(*1)。つい最近、生産者さんと話をしたときも「大原の土には水分や湿度が多い。だから根菜がみずみずしくなるんです」と教えてもらった。なるほど。気候風土の恵みを受けた奇跡の野菜というわけだ。
ちなみに[里の駅 大原]は、珍野菜やレアな西洋野菜が手に入るところもいい。白なすやみどりなす、生のヤングコーン、葉付きのラディッシュ、ビーツ、黒キャベツ、サラダチコリ、ケール、カリフラワーの花……。さて、どうやって食べようか。バーニャカウダ、白あえ、揚げ浸し、クスクスのサラダ……。にやにやと夜ごはんの献立を思案しながら、爆買いした野菜を積んだ車を走らせ、鼻歌まじりで家路を急ぐ。そんな私は今日もお腹いっぱい、幸せいっぱいである。
冬のある日に手に入れた野菜たち。ビーツ、ビタミン大根、下仁田ネギなど。
大原は、景色も空気もおいしい。
[わっぱ堂]のからあげ弁当も忘れずに。
大原野菜を使ってワンプレート。ケールのサラダとエビイモのマッシュ。
作り手の人たちが自ら野菜、お弁当やパンなどを販売する毎週日曜開催の「大原ふれあい朝市」(6:00〜9:00)は、さらにグリーンマーケット感。生産者と直接話ができるから発見も多く、熟した赤い万願寺とうがらしの存在を知ったのも、この朝市でのことだった。
Nihei Aya
エッセイスト。9年のN.Y.滞在を経て、2021年にあこがれの京都へ。著書に『ニューヨークおいしいものだけ』(筑摩書房)、『ニューヨークでしたい100のこと』(自由国民社)、エッセイ本『ニューヨーク、雨でも傘をさすのは私の自由』(大和書房)など。
- Instagram@nipeko55
- 電話番号075-744-4321
- 住所京都市左京区大原野村町1012
- 営業時間9:00〜16:00(旬菜市場)
- 定休日月(祝の場合は翌日休)
- アクセス京都バス「野村別れ」バス停から徒歩5分
※最新話(vol.16)は、SAVVY4月号(2/22発売)に掲載予定。過去記事は、ハッシュタグ #仁平綾の京都暮らし をクリック。ぜひチェックしてみてくださいね。