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ニューヨークから縁もゆかりもない京都に引っ越した
“よそさん”ライターが見つける、京都の発見あれこれ。

VOL.16 もういくつ寝ると、白味噌雑煮?

京都のお正月はおいしい。なぜって白味噌雑煮があるから。

年明けから1月20日までの期間限定で提供される[虎屋菓寮]の白味噌雑煮(現在は販売終了)

とろり、椀に張られたアイボリー色の汁。頂上にふわふわ揺れる鰹節。立ちのぼる甘美な白味噌の香り。具は海老芋に大根、やわらかに茹でられた丸い餅。ほっこり、端正で、品もある味わい。こんな食べものほかにある? これぞベストオブジャパニーズフードでは! と興奮しつつ、[虎屋菓寮 京都一条店]の白味噌雑煮の汁を名残惜しく飲み干して、考えた。いったい誰がこの素晴らしい一品を発明したんだろう。いや、その前に、白味噌はどこの誰が作ったの? 謎だらけ。気になる。というわけで、味噌の蔵元[本田味噌本店]に聞いてみることにした。

白味噌の歴史は古い。発祥は京都で、室町時代には存在していたそう。「1638年発行の書物『毛吹草』に白味噌と思われる記載があって、どうやらお寺で作られていたようです」とは、[本田味噌本店]の田中淳子さん。当時、大豆は貴重なたんぱく源。各地の寺では赤味噌(一般的な塩辛い味噌)が作られていたが、京都では白味噌も作られていたらしい。貴重な米(米麹)をたっぷり使う贅沢な白味噌が、寺で生まれたとは意外。もしや見習いの小坊主が、あ! っと手を滑らせ、麹をどさっと大豆に混ぜてしまい、誤って出来たのが始まりだったりして……。という私の空想はさておき、「年貢米が集まる京都だからこそ、米をたくさん使う白味噌が生まれたのかなと想像します」と田中さん。なるほど!

[本田味噌本店]が調べたところ、その後、文献『本朝食鑑』に白味噌が登場するのは『毛吹草』から60年ほど後のこと。「御所やお公家さんの間でのみ好んで使われていた、と書かれています」と田中さん。寺から御所へ。白味噌の躍進。御所では嗜好品として主に甘味に使われ、愛食されたと言われている。

京都に現存する蔵元は[本田味噌本店]を含め8軒ほど。

米麹の量が大豆の2倍で、発酵熟成は20日程度と短い白味噌。

白味噌雑煮はというと、田中さん情報によれば江戸時代にすでに存在していて、どうやら出どころは宮中らしい。「文献によると、白味噌汁に焼き豆腐、お餅、大根が入れられていたようで、今私たちが食べているお雑煮に近い。宮中で食べられていたものが庶民に広まったのかなと思いますね」。あの美味を市中にリークしてくれた先人よ、ありがとう。

家庭ごとに味も具もいろいろな白味噌雑煮だけれど、基本のルールが一応ある。たとえば、鰹出汁ではなく、白味噌と相性の良い昆布出汁を使う。〝角を立てず、やきもちを焼かず〟との意味から、丸餅を焼かずに入れる。子孫繁栄の象徴である小芋を入れる、など。すると田中さん、「当社では出汁ではなく、お水に白味噌を溶く方法をおすすめしています。より味噌の風味を味わっていただけるので」。え! そんなに簡単なら、関東人の私にも作れちゃう。ならばと[本田味噌本店]で年末に限定販売される、酒米仕込みの特別な大吟醸西京白味噌を鼻息荒く予約([虎屋菓寮 京都一条店」の白味噌雑煮にも同じものが使われている)。これで我が家のお雑煮は安泰。あー、早くお正月が来ないかなあ。

老舗和菓子店の[中村軒]でも白味噌雑煮1,040円が食べられる。[山利]の白味噌を使用した、さらっとコクのある味わい。

[山利]の白味噌を使用した、さらっとコクのある味わい。白味噌雑煮が自宅で簡単に作れるセット(780円)も店頭で販売されている(いずれも2月末まで)。

著者

Nihei Aya

エッセイスト。9年のN.Y.滞在を経て、2021年にあこがれの京都へ。著書に『ニューヨークおいしいものだけ』(筑摩書房)、『ニューヨークでしたい100のこと』(自由国民社)、エッセイ本『ニューヨーク、雨でも傘をさすのは私の自由』(大和書房)など。

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※最新話(vol.17)は、SAVVY5月号(3/22発売)に掲載予定。過去記事は、ハッシュタグ #仁平綾の京都暮らし をクリック。ぜひチェックしてみてくださいね。

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