ニューヨークから縁もゆかりもない京都に引っ越した
“よそさん”ライターが見つける、京都の発見あれこれ。
街には、匂いがある。
ニューヨーク在住のあるとき、現地の友人と「どの街にも、特有の匂いがあるよね」という話になった。ニューヨークの匂いといえばピザ、いやマリファナ、そもそも匂いの前に「街が臭い」などと議論が続いたあと、行き着いた答えは「肉」だった。理由は、ハンバーガーやステーキ、ホットドッグが日常的に食べられているから。プラントベース食が広まった今では、だいぶ肉の香りが薄れていそうだけれど。
では、京都の街の匂いはなにか、というと、思い浮かぶものは二つ。お香と出汁(だし)、である。街を歩いていると、どこからともなく、ふわ〜んと漂ってきて、どちらも鼻をクンクンせずにはいられない芳香。京都ってなんていい匂いの街なの。と、いつも小鼻を膨らませてしまう。
つい先日も、京都市内の寺でお香の匂いをキャッチ。うっとりしつつ、ふ と疑問が湧いた。この街を京都たらしめているお香の匂いの正体ってなに? 寺社仏閣のお線香は、いったい何でできてるの? お香ビギナーの私は答えを求め、専門店へ向かった。
まずは[薫玉堂]。安土桃山時代に創業、本願寺をはじめ全国の寺院に香を納めている老舗だ。店員さんの説明によると、古くから寺院などでたかれているお香のベースは、香木(匂いのする木)で、伽羅(きゃら)、沈香(じんこう)、白檀(びゃくだん)が主だという。
それらに漢方薬やスパイスなどの天然香料を調合し、さまざまな香りが生み出されるらしい。次に向かった創業300年超えの老舗[松栄堂]では、そんなお香情報あれこれを学んだ。ショップの隣に、香りのミュージアム([薫習館])があり、実際に香木の匂いを体験することもできる。ザ・京都な香りとは? を店員さんに尋ねたところ、やはり「沈香や白檀がベースのお香」との答え。どうやら、香木の匂い=京都の匂い、と言うことができそうだ。
浄化作用があり、邪気をはらうと古くから考えられてきたお香。寺院によっては、線香の燃える時間を座禅(一座)の目安にしているところもある、と教えてくれたのは、天然香料にこだわった香を全国の寺院に納めている[天香堂]。店員さんいわく、白檀はやわらかく、沈香はやや重く渋い香りで、どちらにも心を落ち着かせる作用があり、夜寝る前にたくと、ぐっすり眠れるという人もいるのだとか。
へー、ほー、なるほどねぇ。目の前でお香をたいてもらい、話を聞きながら、感心することしきり。そうして好みのお香を購入しまくり、いま我が家は京都の匂いでいっぱいだ。ついでに、[六角堂]や[三千院]などの寺院に出向き、オリジナルのお香を買い求める楽しみも見つけてしまい、お香狂になりつつある。とりあえずいったん、白檀の線香でもたいて、煩悩を落ち着かせるとしよう……。
Nihei Aya
エッセイスト。9年のN.Y.滞在を経て、2021年にあこがれの京都へ。近著に『ニューヨークおいしいものだけ』(筑摩書房)、『ニューヨークでしたい100のこと』(自由国民社)。7月にエッセイ本『ニューヨーク、雨でも傘をさすのは私の自由』(大和書房)を刊行。
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