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「猫が飼えないミステリー」

土間のある町屋をDIYして……。いや、鴨川がどーんと望めるビンテージマンションに……。夢ふくらむ、京都移住計画。ところが、部屋探しという出だしから、思いきりつまずいてしまった。

 「ご存知かもしれませんが、京都市は全国でも1、2を争うほどの猫可物件が少ない街といわれています」 ネットで物件を問い合わせた先の担当者から、そんなメールが届いたのだ。 ご存知なわけないし、そもそも、うっかりしていた。 猫は、基本可。よほど事前にダメと言われないかぎり、飼ってもかまわない。だって猫はネズミ避けにもなるし。というニューヨークの賃貸事情に、すっかり慣れてしまっていたから、まあ猫ぐらいどこでも飼えるでしょ、とかなり軽く考えていたのだ。我が家には、ミチコという名のタキシードキャットがいる(ちなみにネズミを一瞬でとらえる名ハンター。さすがニューヨーク生まれ)。

 たしかに、京都の物件には、ペット可が極端に少ない。やっと見つけても、「ただし小型犬のみ」とか書いてあって、ひどく動揺した。京都という町は、なにか猫に恨みでもあるのですか? 例えば、平安京の昔から、猫は風水的に邪悪な生き物だと忌み嫌われ、いまでも京都では猫を飼う人が少ない。とか。あるいは、朝廷のやんごとなきお方が、寵愛していたウグイスを猫に襲われ、京の町一帯に、〝猫飼うべからず〟というお触れが出された、その名残り。とか。きっと京都ならではの理由があるに違いない。そうでしょう? と担当者に会って詰め寄れば、「理由はよくわからないんですよ」と解せない答え。だったらもう、こっそり飼っちゃおうか……。そんな夫とのヒソヒソ話に、こう釘を刺す。「猫可じゃない物件で、隠れて飼った人がいるんですけどね、すぐにばれて、大家さんに訴えられて、結構な額を取られちゃった。だからやめたほうがいいですよ」 では、作戦変更。ペット可の表記がなくても、気に入った物件があれば、猫を飼えないか交渉することにした。東山のほうにある元工房の町屋は、そうしてOKがでた物件の一つ。でも室内が暗く、湿気が重すぎるので断念。御所南のデザイナーズマンションは、ダメもとでまず内見したけれど、猫はかたくなに不可で撃沈(ちなみにそのマンションは子どもも不可。妊娠した人は追い出されちゃうの?)。二条城近くの猫可マンションは、すんでのところで、別の人に取られて涙を飲み、ようやく決まったのが、北区にある一戸建て。ペット可ではなかったけれど、大家さんに掛け合って、猫1匹ならばOKにしてもらった。ああ、助かった。

新居の畳の部屋。インスタに投稿したらN.Y.の友人からWowとかAmazingとか、絶賛のコメントが届いた。

 それにしても京都は、猫がなぜだめなのか。ミステリー。だれか理由を知っている人がいたら、教えてください。

  • なぜかキッチンコンロは業務用(掃除が大変で泣く)。
  • 天井も板張りの家。こちらもアメリカ人から好反応。
  • イスがようやくそろったので記念写真。
著者

Nihei Aya

エッセイスト。夫の仕事の移転を機に東京からN.Y.へと移住し、N.Y.にまつわる著書を数々出版。9年の滞在を経て、2021年にあこがれの京都へ。近著に『ニューヨークおいしいものだけ』(筑摩書房)、『ニューヨ ークでしたい100のこと』(自由国民社)

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