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ニューヨークから縁もゆかりもない京都に引っ越した
“よそさん”ライターが見つける、京都の発見あれこれ。

vol.47 御供物司ってなんですか?

先日、とある店の肩書きに「御供物司」の文字を見つけ、え? え! 二度見した。おそなえもの、つかさ……? 京都で和菓子を作る〝京菓子司〟なら知ってるけど……。お供え物のプロってこと? とても気になる。

というわけで訪ねたその店は、松風を販売する[三木都(みきと)]。京の銘菓として知られる松風は、白みそ風味で素朴な甘みの、むっちりした焼き菓子。購入しがてら御供物司について尋ねると、正しくは「おくもつし」と読み、松風や干菓子を製造して供物を作り、築地本願寺などへ納めるのが仕事だという。へぇ! 写真を見せてもらったら、紅白の棒状の干菓子を八角形に組み上げたり、色とりどりの丸餅をうろこ状に積み上げたりした供物タワーがずらり。な、なにこれ、かっこいい!

干菓子を八角形に積み上げた、白雪香(はくせっこう)と呼ばれる代表的な御供物。紅白の濃淡がくっきりしているのは、電気のない時代からお供えしていた名残りだという。

 店主で御供物司の大塚真毅さんいわく、供物タワーは浄土真宗本願寺派(西本願寺)で「お荘厳(しょうごん)」と呼ばれる行為の一部。お荘厳とは、本堂に設えられた仏壇を、供物をはじめとする「この世の最高品」で飾り整えること。「そうして浄土を〝見える化〟するんです」と大塚さん。つまり供物タワーは、門徒たちに浄土を疑似体験させる舞台装置。目にした者は「浄土ってすごい〜」となるわけである。なるほど!


紙製の芯に楊枝を打ち、丸餅を盛っていく。鱗に似た見た目から“鱗盛(うろこもり)”と呼ばれるそう。供物タワーの制作は、「細部まで全集中」と大塚さん。50時間(!)かかる御供物もあるとか。

 ちなみに、豪華な供物タワーが並ぶのは、浄土真宗本願寺派(西本願寺)ならではの特徴。さらに遡ると、砂糖の黎明期に供物の素材に砂糖を活用した先駆者らしい。室町時代、砂糖は一部の有力者のみが入手できた超希少品。菓子ではなく、〝薬〟と考えられていた砂糖を、寒梅粉(もち米の粉)と混ぜ、木型で打ち出し干菓子にして(呼び名は「白雪香(はくせっこう)」。落雁の発祥との説アリ)、供物に用いていたというから驚き。法要のあとは参拝者に配られる慣わしだったそうで、当時の門徒の皆さん、どれだけ感激したことだろう。私だったら狂喜乱舞である。

 さて、では松風はどこから生まれたか。なんとこれまた本願寺絡み。戦国時代の石山合戦(織田信長と浄土真宗本願寺との間で繰り広げられた戦い)の際に、門徒の兵糧として開発されたとか。以来、御供物司によって供物として、また本願寺派の菓子として受け継がれてきたという。[三木都]の松風は、小麦粉、麦芽飴、砂糖、白みそを混ぜた生地を約二日間、自然発酵させる昔ながらの製法。大きな丸型ではなく手のひらサイズに焼き上げ、定番のケシの実のほか、クルミや黒豆をトッピングする新発想だ。しかも本邦初の焼きたてを提供。一口かじれば、さくっ、ふかっ。松風ならではの端っこの香ばしさがふんだんに味わえ、うまー! いにしえから現代までの御供物司の歴史と技に合掌である。

松風をタワー状に積み上げた御供物。


直径6㎝の小ぶりなサイズ感がかわいらしい[三木都]の松風。子どもの頃から松風の製造を間近で見てきた大塚さん。つまみ食いしたときに味わったような焼きたてのおいしさを、自身の店で提供できたらと考案した。松風の焼き上がりは昼前頃。1個230円~

ところで大塚さんいわく、京都にはほかにも〝司〟のつく専門職があるそう。御ちまき司、御華束司(餅専門)、装束司、香司(お香専門)……。都で守り継がれたそれらの司に、関東人の私は畏敬の念と憧れでいっぱいである。
 

店舗情報
京都・神宮丸太町
三木都みきと
  • 電話番号
    075-229-6326
  • 住所
    京都市上京区新烏丸頭町190 イストワール御所東1F
  • 営業時間
    12:00〜17:30 ※売り切れ次第終了 
  • 定休日
    水・日
  • カード使用
  • アクセス
    京阪神宮丸太町駅から徒歩8分
著者

Nihei Aya

エッセイスト。9年のニューヨーク滞在を経て、2021年に京都へ。著書に『ニューヨークおいしいものだけ』(筑摩書房)、『ニューヨークでしたい100のこと』(自由国民社)、『ニューヨーク、雨でも傘をさすのは私の自由』(だいわ文庫)、京都のエッセイ&ガイド本『京都はこわくない』(大和書房)など。

  • Instagram
    @nipeko55
この記事は2025年12月号からの転載です。記事に掲載されている店舗情報 (価格、営業時間、定休日など) は掲載時のもので、記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認の上お出かけください。
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