ニューヨークから縁もゆかりもない京都に引っ越した
“よそさん”ライターが見つける、京都の発見あれこれ。
vol.45 飲む飴? ひやしあめ
「ひやしあめ、飲んだことあります?」 と先日、京都の知人に聞かれ、「いいえ、なんですか、それ」と、ぽかんとなった。「飲んでみて」と手渡されたのは、琥珀(こはく)色をした液体、水割りのひやしあめ。昭和の駄菓子屋にあったニッキ水みたいなものかな、シナモン風味は苦手かもぉ……、と勝手にひるんでいたところ、なんと甘美なショウガ味。ほぼジンジャーエール〜。おいしい! 知人いわく、京都の夏の飲みものといえば、ひやしあめなのだそうだ。知らなかった!
それにしても、飴玉じゃないのになぜ、ひやし〝あめ〟? 答えは、麦芽飴が原料だから。大麦を発芽させ、米などのでんぷんと合わせ糖化させて得られる麦芽飴は、古くからの甘味料。そこにショウガの搾り汁、砂糖や蜂蜜を加えたものが、ひやしあめだという。発祥や歴史は謎だけれど、「江戸時代には飲まれていたと言われています」とは、ひやしあめを販売する京菓子司[するがや祇園下里]の井上真由美さん。冷蔵庫も氷もない当時は、お湯で割った〝あめ湯〟がメイン。夏場は冷たい井戸水で割ったものが飲まれていたとか。
なぜか関西地域にだけ残るご当地飲みもので(かつては関東にも存在したが、戦争でほとんど廃業してしまった説あり)、だから関東人の私にはなじみがなかったらしい。京都では、地元商店街や銭湯でよく見られるほか、琵琶湖や疏水での水泳授業あとの定番飲料としても長く親しまれてきたそう。ちなみに[するがや祇園下里]では、30年ほど前にひやしあめを商品化するまで、祇園祭などで地域の人に振る舞っていたという。「祇園祭、送り火、地蔵盆、夏は人が集まる行事が多い。疲労回復の意味も込めて振る舞っていたようです。盆地の京都は夏暑く、冬寒い。激しい気候のなか、体を芯から冷やしたり、温めたりできるのが、ひやしあめ。京都人の生きる知恵かもしれませんね」
ショウガ入りで喉に良いからと、歌舞伎役者や演歌歌手が愛飲していたり。甘味料として、豚の角煮や魚の煮付けなどの家庭料理にも使われたり。実はポテンシャルを秘めている、ひやしあめ。[するがや祇園下里]の店頭で提供される、井上さん発案のひやしあめドリンクも、抹茶との甘苦な対比が楽しい〝ひやしあめおうす〟、ショウガの効いたひやしあめアイスクリームがまったりとろけるクリームソーダなど、意外な組み合わせばかり。なんとアルコールとも好相性だそうで、ウイスキーと炭酸でひやしあめを割った〝祇園ハイボール〟なるものも。なるほど! 酒好きはがぜん盛り上がる。ひやしあめ=和製ジンジャーエールととらえれば、ジンバック(ジン&ジンジャーエール)や、シャンディガフ(ビール&ジンジャーエール)なんかのカクテルに応用できるな……、うへへ。さっそくひやしあめを買い求め、家飲みへまっしぐらな私なのだった。
- 電話番号075-561-1960
- 住所京都市東山区八坂新地末吉町80
- 営業時間11:00〜18:00
- 定休日水
- カード使用可
- アクセス京阪祇園四条駅から徒歩5分

Nihei Aya
エッセイスト。9年のニューヨーク滞在を経て、2021年に京都へ。著書に『ニューヨークおいしいものだけ』(筑摩書房)、『ニューヨークでしたい100のこと』(自由国民社)、『ニューヨーク、雨でも傘をさすのは私の自由』(だいわ文庫)、京都のエッセイ&ガイド本『京都はこわくない』(大和書房)など。
- Instagram@nipeko55