ニューヨークから縁もゆかりもない京都に引っ越した
“よそさん”ライターが見つける、京都の発見あれこれ。
vol.30 9回ぐるぐるまわって開運
「八瀬にある九頭竜大社(くずりゅうたいしゃ)知ってる? 年に数回、お参りに行ってんねん」
会社を経営している京都の知人から、そう聞いたのは少し前のこと。なんでもご利益がパワフルで、ある経営者が九頭竜大社のおかげで運が開け、倒産の危機を乗り越えたとか。その話が広く伝わって、京都はもちろん全国の社長たちから多大な支持を得ているらしい。へー!
がぜん興味がわいて、さっそく初詣に出かけた数ヶ月後、今度は身近な人から「九頭竜大社でお千度参りをしたら、急にすべてが好転した」との報告を受け、またまた、へー!! となった。まもなく新刊を発売する私。ぜひともベストセラー祈願をしたい……。というわけで、鼻息荒く八瀬へ向かったのだった。
九頭竜大社は1954年の発祥。開祖である大西正治朗氏が夢のなかでご神託を受け、自宅そばに小さな祠をつくり、九頭竜弁財天大神様を祀ったのがはじまり。街中から離れた立地、しかも宣伝などしていないにも関わらず、市内から続々と参拝者が訪れた不思議な社である。本殿の周囲を9回まわってお参りする、この社ならではの“お千度参り”もミステリアス。神主の大西正浩さんにうかがったところ、当時の参拝者が自然と本殿のまわりを巡ってお参りするようになり、開祖がその回数を「9回」と定めたのだそう。ちなみに9は一桁で最大の数字。宇宙全体をあらわし、神様の無限の加護を意味するというのが開祖の教えである。お千度参りと聞いて、なにか特別な願いがある人限定かと思ったらそうではなく、「9回まわるうちに心が浄められる、すっとするとおっしゃる方も多いですよ」と大西さん。
ではいざ、私もお千度参りに挑戦。まず、ろうそくに名前や願いを書く。火を点け、ろうそく台に立てたら、本殿へお参りする。拝礼するときは感謝を伝えるべきと聞くけれど、大西さんいわく「もちろん感謝はとても大切ですが、とくに決まりはなし」。自分の願いを素直に伝えて良いそうだ。つづいてお千度棒を9本手に取り、時計まわりに本殿の周囲をぐるぐる。このとき一礼すべきスポットがいくつかあるので、詳しくは“お千度参りのしかた”を参照のこと。一周したら、お千度棒を1本返す。これを9回繰り返し、再び本殿へお参りして終了。最後に、そのときの自分にぴたっ! と当てはまるお言葉がでると噂のおみくじを引き、社務所に用意された護符をひとついただく。護符はお供えの菓子を砕いて授与していたなごりで、現在は砂糖に寒梅粉を混ぜたもの。さらっと口に含めていただく、粉薬のように飲むお守りである。
お千度参りのしかた
さて、お千度参りを終えた私は、なんとも晴れやかな達成感で満たされていた。願いを念じつつ、鳥の声や滝の音に癒されながら、9回まわるうちに雑念が薄まる。どこか瞑想に似た感覚だった。そして最後に護符をいただき、すべてを終えたときの爽快なやり切った感。スキップしたいぐらいの心地で、九頭竜大社をあとにしたのだった。
- 住所京都市左京区八瀬近衛町681
- 公式HPhttps://www.kuzuryutaisha.or.jp/
- アクセス叡電八瀬比叡山口駅から徒歩15分
Nihei Aya
エッセイスト。9年のN.Y.滞在を経て、2021年に京都へ。著書に『ニューヨークおいしいものだけ』、『ニューヨークでしたい100のこと』、『ニューヨーク、雨でも傘をさすのは私の自由』など。4月に京都のエッセイ&ガイド本『京都はこわくない』を刊行。
- Instagram@nipeko55