ニューヨークから縁もゆかりもない京都に引っ越した
“よそさん”ライターが見つける、京都の発見あれこれ。
vol.20 なぜ、どうして、山椒。
京都の人って、とんでもなく山椒を食べますよね? なんででしょう?
とある店で店主にそうたずねたら「とんでもなく、って……」と苦笑されてしまった。すみません、おおげさで……。でも私にとって京都は、“わりと”や“よく”ではものたりず、やはり、とんでもなく山椒を消費する街なのだ。
うどん屋や定食屋のテーブルには粉山椒が必ずスタンバイしているし、親子丼を注文すれば、すでに山椒がふりかけられ供される。いやいや、そこは七味唐辛子でしょ? と、関東人の私は何度、心のなかでツッコミをいれたことか。七味唐辛子だって、京都のものはさすが山椒が主役。唐辛子ベースの関東版とはずいぶん違って、震えた。GWを過ぎたあたりから、スーパーの店頭に青々とした実山椒が並ぶ風景も、実に京都らしい。まれに実山椒を取り扱っていない店舗があると、京都なのに大丈夫か? といらぬ心配をしてしまうほど。ちりめん山椒はもはや京都の一大土産だし、ラーメンにも焼肉にも山椒。和菓子にもおかきにも山椒。カクテルにも山椒。なぜこれほどまでに山椒を愛するのか。


さては生産量が全国一? と調べたら和歌山で、謎は深まるばかり。ううむ。ならばと地元の人への聞きこみ調査を開始した。「京都人の山椒好きはなぜ?」そんな質問を投げかけると、主婦から食のプロまで、みなさん「なんでやろうねえ?」という頼りない反応。「わからない」「知らない」、そして口を揃えて「昔からそういう食文化だから」とおっしゃる。「東京は違いますよ。うどんも親子丼も、基本は七味唐辛子です」。あるときそう返したら、「へぇーっ!そうなんですか⁉」と逆にえらく驚かれてしまった。「山椒の粉を普段のお味噌汁にふったり、お刺身につけて食べはる人もいる」とか、「赤だしには絶対に山椒」とか、「京都の鰻屋さんは、山椒の良し悪しで店が潰れるって言われてる」など、数々の山椒こぼれ話は聞けたものの、残念ながら、これ! という解は得られず。「やっぱり薄味でお出汁の文化やから。山椒と相性が良かったってことじゃないですかねえ。推測ですけどね」という、某食材屋さんのコメントが今のところの有力説である。

さて、関東人だ、七味だ、と言いつつ、実は私、京都の人に負けず劣らずの山椒フェチ。自宅には数種の粉山椒を常備、冷凍庫には下茹でした実山椒がたんまり保管されている。粉のほうは、うどんや麻婆豆腐はもちろん、いちごのマリネやアイスクリーム、ハイボールの仕上げに、さささっと。実山椒は、ぶり大根、豚しゃぶ鍋、酢豚、ハンバーグ、ジェノベーゼパスタなど、和洋中問わず料理に乱用しまくり。きりっとしたシトラス感と、びりびり舌を脅かす痺れがたまらない。気づいたら山椒にどっぷり。もう戻れない。というのが正直なところで、京都人の山椒好きも案外同じ理由なんじゃないの? と、私は踏んでいる。




Nihei Aya
エッセイスト。9年のN.Y.滞在を経て、2021年にあこがれの京都へ。近著に『ニューヨークおいしいものだけ』(筑摩書房)、『ニューヨークでしたい100のこと』(自由国民社)、エッセイ本『ニューヨーク、雨でも傘をさすのは私の自由』(大和書房)など。
- Instagram@nipeko55









