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ニューヨークから縁もゆかりもない京都に引っ越した
“よそさん”ライターが見つける、京都の発見あれこれ。

vol.26 好き。ステキ。住みたい。京都モダン建築。

 ずっと気になっている建物があった。京都御苑のそばに建つ、聖アグネス教会。赤レンガの四角形にキュートな丸窓付き。今も現役? 内側はどんなだろう? 好奇心がむくむく。だから一般に開放されるイベントがあると知ったときは小躍りした。それが『京都モダン建築祭』である。

 聖アグネス教会のほか市役所や大学、元小学校や元個人邸など、近現代の建築物が80軒近く、期間限定で公開される『京都モダン建築祭』。じつは京都は近現代建築の宝庫と知り、へー! がぜん興味がわいた。11月頭の週末、早速パスポートを購入し見学へ。よく考えたら建築ばかりを巡るなんて人生初。これがもう思いのほかツボだった。

衣笠会館(旧藤村岩次郎邸)。

 明治38年に建てられた旧藤村岩次郎邸(現・衣笠会館)は、シンプルな赤レンガの箱に、アーチを描いた縦長窓、各部屋には暖炉という、おしゃれさ。「す、住みたい……」とつぶやきまくる。日本画家・木島櫻谷(このしまおうこく)の住宅だった櫻谷文庫では、蔵のような洋館に萌えた。天井のレリーフ装飾や、ガラスがはめ込まれた木製ドアに目がくぎづけ。欲しい。真似したい。明治44年建造の本願寺伝道院も鳥肌ものだった。仏教施設なのに、モスクみたいなドーム型天井。謎でステキ。待望の聖アグネス教会は、入った途端「うわー! 」と心で絶叫。ステンドグラスの窓から、美しく濾過された外光が降り注ぐ。木造天井と白壁、赤い布張り椅子の静粛な色の対比に震えた。モダン建築って、視覚情報たっぷり。寺社仏閣より見ごたえあるかも。夢中になって、二日間で15の建物を見てまわった。

櫻谷文庫(旧木島櫻谷家住宅)の洋館。

本願寺伝道院。

聖アグネス教会の内部。

 それにしても、なぜ京都には近現代の建築物が多く建てられ、残っているのだろう。なにか理由があるはず! と、『建築祭』の実行委員である大阪公立大学教授の倉方俊輔先生にうかがったところ、「東京、大阪、京都は江戸時代から続く三都。どこも同じぐらいの数建てられた。京都だけが特別じゃないんですよ」との答え。文化人や知識人が暮らした三都では、西洋文化への理解が高く、洋館や教会、ミッションスクールが建造された。それらがやがて「東京ではめちゃくちゃ壊されて、大阪ではまあまあ壊されて、京都も結構壊された。それでも京都は残っている率が高い」のだそう。なるほど!

 でもまてよ。“残ってる率高し”に、特別な訳はないの? 戦災や震災がなかったからとか? 「そのおかげで木造建築が残ってます」と先生。洋風を取り入れた木造町家が残存するのは京都ならではだという。じゃあ、古いものを尊ぶ京都人のDNAが関係していたりは? 先生いわく「世界的に見ても歴史の古い街は文化度が高く、歴史的なものを大事するのは事実」。パリやロンドンと同様に、京都にも当てはまるそうだ。

龍谷大学大宮学舎も気になっていた建物のひとつ。明治12年の木造。

島津製作所 創業記念資料館にある和室。元は社長室。江戸時代の規制がなくなり自由で独創的になった近代の京町家も見ごたえアリ。

元成徳中学校。さらに元は小学校。

 とにもかくにも、建築を愛でるって、いろいろ気づきがあって楽しい。歴史や街のなりたちに意識が向くし、「窓枠がやたら気になる」とか、床材やタイルフェチだとか、自分の嗜好を探るきっかけにもなった。洋館好きをあらためて自覚して、今では京都のレトロ洋館の主人になるのが夢である。資金のあるなしはさておき、とうてい無理な話かと思ったら、「土地代が高い東京では難しいけれど、東京以外だったら夢物語じゃないですよ」と先生。ええ! そうなんですか!

 もし洋館暮らしが叶ったら、建物を公開する側として建築祭に貢献したい〜。余韻と妄想が止まらない私なのだった。

店舗情報
京都モダン建築祭
  • 公式HP
    https://kyoto.kenchikusai.jp/
著者

Nihei Aya

エッセイスト。9年のN.Y.滞在を経て、2021年にあこがれの京都へ。近著に『ニューヨークおいしいものだけ』(筑摩書房)、『ニューヨークでしたい100のこと』(自由国民社)。エッセイ本『ニューヨーク、雨でも傘をさすのは私の自由』(大和書房)など。

  • Instagram
    @nipeko55
この記事は2024年2月号からの転載です。記事に掲載されている店舗情報 (価格、営業時間、定休日など) は掲載時のもので、記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認の上お出かけください。
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