ニューヨークから縁もゆかりもない京都に引っ越した
“よそさん”ライターが見つける、京都の発見あれこれ。
vol.27 梅と、福玉と、お正月。
12月13日は、事始め(ことはじめ)の日。正月の準備に取りかかる日なのだという。京都にかぎったことではなく、全国的な慣習らしいけれど、京都に暮らすまで、そんな日があるなんて気づきもしなかった。
新年に福をもたらす年神様を迎えるため、昔は事始めの日に門松の松を山に切りに行ったそう。いまは家の掃除をしたり、社寺ではすす払いを行なうのが一般的だとか。祇園にある花街では、芸舞妓さんがお師匠さんなどへ挨拶まわりをする日としても知られている。毎年、年末まで仕事や家の用事でバタつき、やばいやばいと大晦日にその場しのぎの掃除をするも、早々に酒をあおって年越しそばと紅白でだらだら。という私は、たぶん年神様的には完全にアウトだったんじゃないかと反省した。逃した福はでかい。
今年は事始めから、余裕をもって正月準備を進めるぞ。というわけで13日に北野天満宮へ向かった。なんでもこの日から、大福梅(おおふくうめ)が授与されるのだそうだ。大福梅とは、境内で採れた梅を塩漬けにしてから天日干ししたもので、元旦の朝にこの梅を入れた白湯やお茶を飲むと、邪気がはらわれ、健康な1年が過ごせるという。平安時代に疫病が流行した際、天皇が梅を入れたお茶を服用したところ病が癒えたとの言い伝えに由来しているとか。大福梅のほか、正月飾りの守護縄、屠蘇、祝箸、清め塩がひと袋に収められた、なんとも縁起のよさそうな“ことはじめセット”も授与されると聞き、早足で授与所へ。無事手に入れたら、もう福がきたみたいな、ほくほくした気分になった。



お正月の縁起物といえば、気になっていたのが福玉(ふくだま)である。ポケモンボールの特大版みたいな、紅白(というよりは白&ピンク)の球で、祇園の芸舞妓さんが、お茶屋やなじみのお客さんからお年玉代わりにもらうもの。中には干支の人形などが入っていて、新年を迎えてから球を割るのがしきたりだという。一般の人でも購入できると聞いて、祇園へ走った。
喫茶店[切通し進々堂]の店頭を覗いたら、福玉がいくつか束ねて吊るされていた。じつは丸いものに目がない、球体マニアの私。か、かわいい……! 福玉の姿を目にしただけで気分があがり、前のめりで小さいほうをひとつ購入した。


福玉の素材は餅皮で、頑丈な最中の皮といったところ。昔の京都の家庭では、福玉を割ったあとの餅皮を「火鉢で炙り、おしるこに入れて食べていた」と店の人から聞いて、なんて愛らしい風習なのー!と、さらに萌えた。しかし福玉がかわいすぎて、私には割れないかも……。縁起物だし、このままずっと吊るしておくか……。でも中身は見たいよなぁ。などと、にやにや考えながら大事に福玉を抱え、家へ持ち帰った。
正月料理の手配もしたし、老舗茶舗から年末年始に販売される大福茶もあれこれ購入したし、正月に向けた準備はいまのところ万全(ほぼ飲食系だけど)。良き新年を迎えられそうな予感である。



Nihei Aya
エッセイスト。9年のN.Y.滞在を経て、2021年にあこがれの京都へ。近著に『ニューヨークおいしいものだけ』(筑摩書房)、『ニューヨークでしたい100のこと』(自由国民社)。エッセイ本『ニューヨーク、雨でも傘をさすのは私の自由』(大和書房)など。
- Instagram@nipeko55









