ニューヨークから縁もゆかりもない京都に引っ越した
“よそさん”ライターが見つける、京都の発見あれこれ。
vol.29 食べ比べ、椿餅。
麩饅頭、桜餅や柏餅、柿の葉寿司、ちまきは甘いのもしょっぱいのも。葉でくるまれた食べものって愛おしい。プラスチックの食品包装が幅をきかすなか、いまどき自然の葉なんて。と純粋に感動してしまう。そんな私がひとめぼれしたのが椿餅だった。餡入りの丸い道明寺と、それを上下から挟む椿の葉の組み合わせ。とくにちょこんと上に乗った葉がもう、なに。雪うさぎ? ドロンと変身する狸? リーゼントヘアなの? 想像膨らむ、ゆるキャラ感がたまらないのだ。
東京では見かけなかった椿餅。2月の京都でよく遭遇するなと思ったら、平安時代に食されていた最古の和菓子として知られているとか。『源氏物語』の中に、“蹴鞠のあとに若い人たちが、梨やみかんとともに椿餅を食べた”との記載があるという。へー! 店によって餅や餡もさまざまと聞き、喜び勇んで食べ比べをすることにした。
物語にちなみ「つばいもちひ」と命名された[御菓子司 塩芳軒(しおよしけん)]の椿餅は、道明寺に和三盆の糖蜜(和三盆糖を作る過程でできる)が用いられ、うっすら茶色。本来の椿餅が、餅に丁子(ちょうじ)や植物由来の甘味料である甘葛(あまづら)を加え固めた菓子だったことから、甘葛のイメージを持たせることはできないかと、糖蜜を合わせたのだという。もちもち、さらりとした道明寺が、中のこし餡とあいまって、ほんのりコクのある甘み。平安時代の椿餅に思いを馳せながらいただいた。


同じく色のある椿餅を販売していたのが、和菓子店の[まるに抱き柏(だきがしわ)]。こし餡を包むのは、小豆のような赤い色をしたニッキ風味の道明寺。それとは別に白い椿餅もあって、こちらは生姜風味で、中はちょっぴり塩みのある味噌餡という変わり種。どちらも、ふわっふわな口当たりで、香辛料がそそる大人味。お酒とも相性が良いだろうなと思ったら、白い椿餅は「日本酒の古酒に合うスパイシーなお菓子を」とのスタッフのリクエストから生まれたのだそうだ。

定番の白い椿餅かと思いきや、じつは中に金柑の甘露煮と白餡を忍ばせていたのは、京菓子司の[亀屋良長]だった。元々は金柑を包んだ道明寺を笹の葉でまいていた菓子を、椿餅として数年前に復刻したとか。ぷっくりした餅をかじると、金柑の爽やかな酸味と、ちょっぴりビターなアクセント。冬の余寒に春を待ち望む。そんな2月の心情をぴたりと表現している椿餅だった。

白い道明寺でこし餡を包んだ、シンプルな椿餅は[有職菓子御調進所 老松(おいまつ)]のもの。もっちり、粒子の細かい道明寺と上品なこし餡の黄金比に、王道の椿餅ってやはりいいものだなあ、としみじみ味わった。

かわいい、おいしい椿餅。味のバリエーションも広く、食べ比べ甲斐あり。いまでは桜餅や柏餅より、がぜん椿餅推しの私である。冬の京都は苦手だけれど、来年の2月だけは早く来てほしい。
- 住所京都市上京区飛弾殿町180
- 公式HPhttps://www.kyogashi.com/
- 住所京都市右京区西院平町21
- Instagram@maruni_dakigashiwa
- 住所京都市下京区四条通油小路西入柏屋町17-19
- 公式HPhttps://kameya-yoshinaga.com/
- 住所京都市上京区社家長屋町675-2
- 公式HPhttps://oimatu.co.jp/

Nihei Aya
エッセイスト。9年のN.Y.滞在を経て、2021年に京都へ。著書に『ニューヨークおいしいものだけ』、『ニューヨークでしたい100のこと』、『ニューヨーク、雨でも傘をさすのは私の自由』など。4月に京都のエッセイ&ガイド本『京都はこわくない』を刊行。
- Instagram@nipeko55









