ブックディレクター。
あまたある中から本を選んで、意志を持った棚を作る。
本と人が触れあえる場所を作る。
ざっくり言うと、こういう仕事でしょうか。
そのブックディレクターを初めて名乗ったのは、
幅允孝さん。
図書館はもちろん、ホテルから病院まで、
いろんなところで幅さんが手掛けた棚があります。
幅さんと出合ったのは
ドキュメンタリー番組『情熱大陸』に出演された2008年頃でしょうか。
大阪の商業施設で、幅さんが手掛けた棚を見て
「なんかウチの本棚と並びが似てるなぁ」と思ったのが第一印象で、
そこから連載をお願いしたりと、お付き合いが続いております。
東京を拠点に活動されている幅さんから
唐突に「京都に場所を作るので、できたら来てください」と
更地の土地の写真が一緒に送られてきました。
それから1年あまり。
「とっても良い場所ができたので、遊びに来てください」
と、再び連絡がきました。
場所は、京都市左京区。
叡山電車の三宅八幡駅から、細い路地を抜けた静かな住宅街にあります。
名前は、鈍考/喫茶 芳
私設図書館と喫茶の空間です。
「最近の東京はスピードが速すぎて、いろんなコトや物が迫ってくる感じがしてしまって。
加えてリモートワークが広まったことで、逆にいつでもどこでも追いかけられるように」
と、幅さん。
本を「ゆっくり」読む時間も減って、読書の質も下がっている気がする、とも。
話が少し変わりますが、
幅さんは、常々「本は遅効性のもの」と言っています。
読んだすぐから役に立つというより、なんとなく心や頭に残っていて、
じわじわと効いてくる。あるいは、ふとしたときに内容を思い出したりもする。
本棚の背表紙を眺めているだけでも効果はある。
この意見はすごくよく分かります。
SAVVYで紹介したお店から、
「掲載から2、3年後に雑誌を持ってやってくるお客さんもいらっしゃいます」
と、聞くことがけっこうあるからです。
テレビだと、放送から3日間くらいにドーンとお客さんが来て、
すっと引いてしまうと、聞きます。
そこで東京から少し離れて、ゆっくりと過ごせる場が必要だと考えて、
私設図書館と喫茶を併設した[鈍考/喫茶 芳]の計画が始まったそうです。
長野や富山などいろんな場所が候補だったようですが、
京都のこの土地に「偶然出合って、ここしかない」と即決だったとか。
さて、その[鈍考/喫茶 芳]。
建築家の堀部安嗣さんに、「ほとんどお任せ」でお願いした建築は
静謐であり、凜としているけれど、決して堅苦しくなく。
木サッシの窓も大きく、光がたっぷり入るのもすてきです。
その窓から続くテラス、その先には小川と杉の木が立ち並ぶ借景。
内と外が、シームレスにつながったような空間は、禅寺のようでもあり。
時折入れ替える予定の本を眺めながら、
店主ファンさんが手回しの焙煎機で焼いたコーヒーと甘味をいただけます。
「甘味に関してはまだまだだと思っていて、毎年ひとつずつレパートリーを増やしていきたい」
と、今年はプリンにトライ。
ネルドリップで淹れたしっかり目のコーヒーに、
卵を豊かに感じる、これまたしっかり目のプリンがよく合います。
なにもせずとも、90分があっという間に。
ちなみに、入ってすぐがロッカーで、スマホを預けるスペースも。
時間にこそ価値がある、と考えさせられました。
そして、豊かな時間は作るものであると。
それではどうぞよろしくおねがいします。
- 電話番号なし
- 住所京都市左京区上高野掃部林街4-9
- 営業日・時間水〜土(11:00〜、13:00〜、15:00〜各回90分の3部制)
- 料金2,200円(コーヒー1杯付き)
- アクセス叡山電鉄三宅八幡駅から徒歩12分
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