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ニューヨークから縁もゆかりもない京都に引っ越した
“よそさん”ライターが見つける、京都の発見あれこれ。

VOL.17 怖い寺、怖い神社!?

よく当たる、怖いぐらいに。と、私のまわりでもっぱらの噂が六波羅蜜寺のおみくじだ。なんでも四柱推命がベースで、占いに近く、有効期間は2月4日から1年間。そのために2月を選んで京都へ足を運ぶ人もいるほど。へー、それは引きに行くしかない!2月半ばのある日、寺へ向かった。

六波羅蜜寺には、願いが叶う“一願石”、銭洗い弁財天なども。

空也上人立像が拝める宝物館も必見。

本堂内にあるおみくじの場所は、すでに10人を越える行列。ファイルで自分の生年月日と性別が交わる欄の番号を確認し、窓口で伝えると、おみくじが授与される仕組みだ。大判の紙には大吉や凶の記載はなく、”傷官”や”印綬”といった見慣れない言葉ばかり。うん、これはたしかに占いっぽい。

開運推命おみくじは400円。1年に1回引けばOK。手元に保管し生活に役立てるべし。

住職の川崎純性さんにうかがったところ、四柱推命を学問的に研究していた方の協力を得て、先代が始めたもの。川崎さんらが改良を重ね、現在の”開運推命おみくじ”に至ったという。四柱推命学に基づく1年の運勢のほか金運や仕事運などが記されている。

「悪いことは書いてあると気にする方がいるけれど、おみくじは生きる上での指針。人生を決めるものではなく、幸せをつかむためのツールです」と川崎さん。ご本人自ら、それを実体験したばかりだそうで「”思うことがうまく進まない”とおみくじにあって、見事にそうなった。でもきっと自分の力足らずや、ひとりよがりがあったかもしれんから、もっぺんよく考えなさいという意味やと私はとらえました。大きな反省が与えられたわけやね。まあ、まだ内心はショックやけども(笑)」

ちなみに私の引いたおみくじを住職に特別に見てもらったところ、今年は隠忍自重(苦しみをじっとこらえ、軽率な行動を控える)年とのこと。思い当たる出来事があったばかりの私は、思わず鳥肌。開運推命おみくじ、恐るべし。いや、ありがたや、である。

もうひとつ、「効きすぎて怖い」と囁かれるのが、安井金比羅宮の縁切り縁結び碑だ。境内に鎮座する巨石がそれで、形代(形代)と呼ばれるお札が何層も貼られ、ただならぬ気配。願いごとをお札に書き、それを念じながら碑に空けられた丸い穴をくぐり戻れば、悪縁が切れ良縁が結ばれるという。社内の人間関係に悩んでいた友人は祈願後、上司が更送されたし、ほかにも縁切り例をいくつか耳にして興味津々。切りたい縁はないけれど、私も穴をくぐっていいのだろうか?

安井金比羅宮の境内で、ひときわ目を引く縁切り碑。

宮司の鳥居 肇さんいわく、本来は断ちものを祈願する場所とのこと。神社に祀られている崇徳上皇が島流しにあった後、欲を断ち切りお籠りされたのが由来。そのため、病気や悪癖を断つなどの祈願もできるそう。また、「穴を通り抜けるのは生まれ変わる、新しい世界へ行くという象徴」と鳥居さん。「縁切りにとらわれず、良縁に結ばれたい、幸せになりたいなど、自由に願いを書いていただいて結構です。祈願することで、前へ進める気持ちになってもらえたらと思います」

目から鱗だったのが、安井金比羅宮はもともと、崇德上皇が寵愛する阿波内侍(あわのないし)を住まわせた場所で、「上皇さまが幸せだったときの魂をお祀りしている」ということ。縁切りのイメージが先行し、怨念が渦巻いているかも……と勝手に恐れていたけれど、実はハッピーオーラが漂う場所だったのだ。そう聞くと、縁切り碑も急に愛らしい姿に見えてくる。幸せを祈願して穴をくぐり、お札をぺたりと貼った私は、清々しい気持ちで神社を後にしたのだった。


形代(お札)1枚につき100円程度のお賽銭を納めたら、お札に願いを書き、穴をくぐり戻って、糊で碑にお札を貼る。本殿へのお参りも忘れずに。
著者

Nihei Aya

エッセイスト。9年のN.Y.滞在を経て、2021年にあこがれの京都へ。著書に『ニューヨークおいしいものだけ』(筑摩書房)、『ニューヨークでしたい100のこと』(自由国民社)、エッセイ本『ニューヨーク、雨でも傘をさすのは私の自由』(大和書房)など。

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※最新話(vol.18)は、SAVVY6月号(4/21発売)に掲載予定。過去記事は、ハッシュタグ #仁平綾の京都暮らし をクリック。ぜひチェックしてみてくださいね。

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