イラストレーターの久保沙絵子が、毎月1冊をピックアップして、勝手にその本の表紙を制作する企画。イラストが描き上がるまでを追いかけます。記念すべき1冊目は、2016年第155回芥川賞受賞。『コンビニ人間』(著/村田沙耶香)です。
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久保沙絵子/イラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチが特徴。雑誌やウエブなどで活躍中。
「狂気を感じる絵ですね」と、お褒めいただく私の作風。連載第1回目は、狂気を感じる本に向けた絵にしよう思います。『コンビニ人間』(著/村田沙耶香)への作品。装画がすてきで、ジャケ買いした1冊です。
著/村田沙耶香
文藝春秋(文春文庫)
話の中に、白鳥さんという濃い味のキャラの男性が出てきます。婚活目的でコンビニのバイトを始め(この発想もすごい!)社会にぺっぺと唾を吐きながらも社会の目を気にし、自分を社会から遠ざけることで安心を得るような人物です。そんな白鳥さんと主人公の女性の、変わった人同士が観察し合うようなやりとりが面白いです。
考え方や見た目が変わった人のことは”こわい・気持ち悪い”のどちらかで片付けてしまいがちですが、物により、こわいけどちょっと気になる。の気になる方の気持ちに素直になって、その人をよく知ってみると、何かに対する猛烈な熱意が見えたりして「良い!」と思うことがあります。
以前、神戸ポートタワー近くの港にスケッチしに行ったときに、ウッディーストックの被り物をしてバンジョーを弾いているおじさんを見つけたことがあります。
わたしは弦楽器の中では特に三線とバンジョーが好きなので、とっても興味があったのですが、こわい気持ちが勝ってしまって話しかけられませんでした。
話しかけられなかったことを後悔しているのは、何かや誰かのことを「良い!」と思える機会を逃してしまったと心の奥で分かっているからなのだろうなと思います。
でも大丈夫。気にせず進めます。
本を読むと、登場人物が生きて、同じ世界に存在しているような錯覚をします。
映画やドラマではない感覚なのに本だとそう感じるのは、本の中の人たちがまだ誰にも演じられていないからだと思います。
いつかどこかのコンビニで、ふと、コンビニ人間に出会えることを期待して。
「コンビニ人間」への線画制作にお付き合いいただきありがとうございました。
楽しかったです。次の本もお楽しみに!
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久保沙絵子
イラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチが特徴。雑誌やウエブなどで活躍中。
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