2024年3月17日、大阪・上本町にて37年続いた名店[なかたに亭]は閉店した。そのニュースはテレビ番組にも取り上げられ、最終日には300人以上が長蛇の列をなすほどだった。あれから1年……[なかたに亭]オーナーパティシエ中谷哲哉さんを訪ねた。新章がスタートした中谷さんに、これまでの軌跡とこれからの展望を、出身者や、現在も関わる[YARD]のスタッフと共に語ってもらった。
写真/わたなべよしこ 濱田志野(Komorebi)
編集・文/長瀬 緑
vol.4 現在進行形
[YARD Coffee & Craft Chocolate]のこれから
息子でもある中谷奨太さんが担う[YARD]には、
中谷さんも後進の育成やメニュー開発などで精力的に携わっています。
お店のこれまでとこれからを聞きました。
「父から息子へ受け継がれるもの」
[なかたに亭]の新展開として2019年に誕生した[YARD]。きっかけは、息子の奨太さんからの「これからの[なかたに亭]を一緒に作りたい」という申し入れからだった。「閉店すると聞いた時は驚きましたけど、悲しさはなかったです。父がやってきたことを、こうして大阪に残すことができたので。今も、技術指導や、店として大事なことは常に僕やスタッフにも継承してくれています。開店して5年が経ち〝お客さまの日常にある店〟にしたいという思いが明確になりました。週に何度も来たくなるような。スタッフの空気感、商品ラインアップなど、その思いがお店作りにつながっていると思います。[YARD]では父の作るものがより本質的なものになっていると思います」(奨太さん)。「そうですね。フランス菓子の基本はありながら、今自分が思うシンプルなお菓子を作りたいと思っていますし、[YARD]ならそれが表現できる。あと、いつになるか分からないけど、コーヒーとお菓子と共にパンや料理も出したいと思ってます。“人を幸せにする”をテーマに、みんなと一緒に夢を追いかけたい」(中谷さん)。次なるフェーズへと入った中谷さん、これからの[YARD]と共にまだまだ目が離せない。
「引き継ぐ味、新しい味」
[なかたに亭]の創業時からのメニューで、[YARD]では2024年10月に復活したマルジョレーヌ800円(右)。「僕が一番好きだったというのもありますが、ケーキの構成や層の一つ一つに意味を感じる。父自身も思い入れの深いお菓子で、[なかたに亭]のDNAを継ぐものだと思うのでメニューに加えてもらいました」(奨太さん)。もう一つはトレイベイク700円(左)。「パティシエ二人が作りたいと提案してくれて、試行錯誤で一緒に作りました。信州松川で出合った[りんご屋たけむら]のグラニースミスを作っています」(中谷さん)
「新世代パティシエへの想い」
[YARD]では立ち上げから支えるシェフパティシエの足立さくらさん(中央)、企画書30枚を持参してプレゼンした後に入社したという逸話を持つ天野祐理子さん(左)、中谷さんの3人がお菓子部門を担当。「素材をリスペクトする姿勢。それが一番大事ってことにいつも気が付かされます」と話す足立さんは、今後は[なかたに亭]のカライブのような[YARD]名物を生み出したいそう。「シェフは思いを受け止めて聞いてくださいます」。中谷さんを尊敬する天野さんは、[YARD]をより全国区にしたいと熱く語る。「僕の経験が彼女たちの新しいアイデアを壊さないように。これまでの常識は置いておいて、お互いの意見を取り入れながら最終的においしいものを作りたいですね」(中谷さん)
中谷哲哉さんが手掛ける新作ベイク!
[なかたに亭]閉店後初となる中谷さんの完全オリジナルベイクを、SAVVYのために特別に作ってくれました!
SAVVY×[YARD Coffee & Craft Chocolate]
SAVVYのための最新作
“瀬戸田レモンとプラリネのマフィン”を数量限定販売!
[販売期間] 2025年1月23日(木)〜2月22日(土)
※期間中、個数限定で店頭販売
「旅先で出合った旬のおいしい果物を使って生まれた新作です」
[YARD]の若手パティシエの育成に力を注いでいる中谷さん。彼女たちが作るものを後押ししてあげたい気持ちが強く、この1年は自身があまり出しゃばり過ぎたくないと強く思っていたそう。「今回、みんなと話をして、もう少し自分もやってみてもいいのかなと思えた。今、僕がやりたいと思うことがうまく表現できたと思います」。閉店後初めて手掛けた新作は、旅先の広島・瀬戸田で出合った[みくに農園]の無農薬レモンを生かしたマフィン。「果汁はそんなに入れてないんですけど。味も香りもパワーのあるレモンなので、口に入れたら一気にレモン感が広がりますよね。プラリネは、あえて大きめのごつごつした食感のあるものを入れたので、レモンの香りと共にその香ばしさを味わってもらえたら」。瀬戸田レモンとプラリネのマフィン1個610円
[YARD Coffee & Craft Chocolate (ヤード コーヒー アンド クラフト チョコレート)]
自家焙煎コーヒー、カカオ豆から仕入れて店内で焙煎して仕上げるビーントゥーバーのほか、専属のパティシエが作るケーキが楽しめるカフェ。コーヒーやお菓子のテイクアウトもできる。
- 電話番号06-6776-8166
- 住所大阪市天王寺区茶臼山町1-3
- 営業時間10:00〜18:00
- 定休日火&第1・3・5水
- カード使用可
- 席数60
- アクセス各線天王寺駅、近鉄大阪阿倍野駅から徒歩8分
※この記事は2025年3月号からの転載です。記事に掲載されている店舗情報 (価格、営業時間、定休日など) は掲載時のもので、記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認の上お出かけください。