遠くて近い光はつながっている
文/岡山 拓
“写真を撮る”というのは、多分身体的なことだ。撮影場所まで移動して、被写体を探し、構図を求め、時には無理なポーズをして。スマートフォンの撮影にこだわりすぎて、ちょっと無茶をした経験は誰にもあるだろう。川内倫子の作品は、まず撮影することから始まる。撮れた写真と対話することで、シリーズとなり、作品となる。体験が先に来て、そこからテーマが導き出される。新作であるシリーズ「M/E」は、アイスランドで旧火山の内部に入った体験から生まれたシリーズ。地球の内部に入り込み、包み込まれたようなような感覚や、自身が出産して母となった経験から、母(mother)と地球(earth)がつながり、その頭文字から「M/E」となった。
川内の作品は、色や形よりも光を意識させられる。その光は約1億5千万キロ離れた太陽からの地球に届いた光だ。星の光だともっと遠い。遠いものが近くのものを照らしたとき、形はあらわに。そうした、普段意識できない距離感やつながりを表現している。「M/E」の撮影時には、新型コロナ感染症の世界的な広がりがありアイスランドは行けなくなったが、北海道の美唄(びばい)などで撮影を継続。シリーズの中にも異なる距離感ができ、母としての視点は作品に深みと温かみを加えていた。
本展はここ10年間に制作されたシリーズを中心に構成された、関西では初めてとなる大規模な展覧会。震災後の東北で撮影された「光と影」、熊本阿蘇の野焼きを撮った「あめつち」なども展示される。建築家中山英之による会場デザインは、透過性のあるカーテンで内と外を緩やかに区切り、内部に入り込み包まれる感覚を呼び起こす。川内が滋賀出身であることから「川内倫子と滋賀」の一室を設け、[滋賀県立美術館]のリニューアル時の撮り下ろし作品や、県内の福祉施設[やまなみ工房]を3年をかけて撮影した写真などが展示される。長時間の映像作品もあり、彼女の写真を眺めるときは歩くのがゆっくりになるだろうから、時間のゆとりをもって訪れたい展覧会だ。
『川内倫子:M/E 球体の上 無限の連なり』
期間:開催中~2023年3月26日(日)
場所:滋賀県立美術館
- 電話番号077-543-2111
- 住所滋賀県大津市瀬田南大萱町1740-1
- 時間9:30~17:00(最終入館は閉館30分前まで)
- 定休日月
- 料金観覧料1,300円
- アクセス帝産湖南交通「県立図書館・美術館前」「文化ゾーン前」バス停から徒歩すぐ