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文/春岡勇二

木村拓哉が織田信長を、綾瀬はるかがその正室の濃姫を演じる、映画会社・東映の創業70周年記念作として作られた時代劇大作。脚本は、映画では『ALWAYS 三丁目の夕日』(2005~12)や『探偵はBARにいる』(2011~17)などのシリーズを手掛け、テレビドラマでは『相棒』(2005~)、『リーガルハイ』(2012~14)などで知られ、さらに今年のNHK大河ドラマ『どうする家康』も執筆する古沢良太。監督は『るろうに剣心』シリーズ(2012~21)、『3月のライオン』2部作(2017)など安定した手腕を見せる大友啓史とくれば期待はいやおうなしに高まるけれど、それでも大丈夫。古沢脚本はこれまでに観たことのない信長、濃姫像を造形していて、それを木村、綾瀬が息の合った演技で魅力的に肉体化してくれている。

古沢造形による信長・濃姫像とは、若き日の信長は格好ばかりで中身が伴わない、うわさ通りのうつけ者、一方濃姫は幼い頃から文武両道に秀で、人間の器量では信長をはるかに凌ぐ女傑だったとするもの。そんな二人が、敵対する隣国同士の政略結婚で夫婦となって初めはうまくいくはずもない。けれど、時代の趨(すう)勢により信長が天下取りに歩みだすと、二人はかけがえのないパートナーとなり、ついには心も体も通じ合う。ところが、ある不幸をきっかけに、今度は相手を思いながらも離れることに。もう少し素直であったなら、あのときあんなことさえなかったら、と思うのは今も昔も変わらない、愛の後悔。そんな愛の経緯を、木村拓哉、綾瀬はるかの顔合わせで、戦国末期の歴史のなかに落とし込んだ物語。中谷美紀演じる濃姫付きの侍女のほか、宮沢氷魚演じる明智光秀、斎藤 工演じる徳川家康も個性的で面白い。恋愛映画と言っていい、東映の挑戦が感じられる時代劇。

愛の本質を追い求めた作品がもう1本。こちらは鈴木亮平と宮沢氷魚がゲイのカップルを演じる『エゴイスト』。こう内容とタイトルを告げられると、ゲイのカップルの愛憎もつれあう映画を想像しがちだが、この映画は違う。エゴイスティックな欲望として一人の青年を愛した男の愛情が、そのまま相手の肉親への愛情や、社会的に弱い立場にある人への愛情といった、広い意味での愛と一体化することはありうるのか、つまり、自己愛がそのまま他者愛となることはあるのかということを問いかける野心作なのだ。

鈴木亮平演じる主人公は、ファッション雑誌の編集長として活躍し、経済的余裕も社会的地位も有する男で、それが宮沢氷魚演じるパーソナル・トレーナーの青年と出会い、互いに愛情を感じ合うパートーナーとなるが、あることが起こり、柄本 明演じる自身の父親や、阿川佐和子演じる青年の母親にそれまでとは変化した気持ちを抱くようになっていく……。監督・脚本は『トイレのピエタ』(2015)、『ハナレイ・ベイ』(2018)などの松永大司。原作は2020年に亡くなったコラムニストの高山 真。宮沢氷魚が両作に出ているのも興味深い。

©2023「THE LEGEND & BUTTERFLY」製作委員会

『レジェンド&バタフライ』1月27日(金)公開
梅田ブルク7、T・ジョイ京都、OSシネマズミント神戸 ほか
監督/大友啓史 出演/木村拓哉、綾瀬はるか、宮沢氷魚、市川染五郎、伊藤英明、中谷美紀 ほか

Ⓒ2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会

『エゴイスト』 2月10日(金)公開 R15+
シネ・リーブル梅田、TOHOシネマズなんば、アップリンク京都、シネ・リーブル神戸 ほか
監督・脚本/松永大司出演/鈴木亮平、宮沢氷魚、中村優子、和田 庵、ドリアン・ロロブリジーダ、柄本 明、阿川佐和子 ほか

※この記事は2023年3月号からの転載です。記事に掲載されている情報は掲載時のもので、記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認下さい。

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SAVVY1月号『よしもと漫才劇場となんば』
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