山あり谷ありの美術館
文/岡山 拓
美術館を縁の下で支えているのは、学芸員と呼ばれる専門家たちだ。資料などを収集し、整理・保存をするイメージもあるが、その正体は「雑芸員」と言われる“何でも屋”だ。展覧会には予算や時間の制約がある中、アーティストの無理難題に答えるのも仕事のうちで、60年代からデザインとアートの最前線を走り続けている横尾忠則というとんでもないアーティストであれば、その苦労も想像を超えてくる。[横尾忠則現代美術館]は、横尾一人の作品だけで展覧会を展開し続けること自体がそもそもすごいのだが、開館前には横尾から51もの展示プランのむちゃぶりがあった。そこから実現可能なプランを精査し、2012年に開館。以降10年間の、横尾を主軸に展覧会を作り続けた学芸員たちの軌跡をたどる展覧会が始まる。
2013年の展覧会『横尾忠則どうぶつ図鑑』は、館の転機となったと言われている。展示室内に動物の剥製を持ち込んだことで出来上がった異空間に横尾が大喜び。ここから“美術館コスプレ”なる新しいジャンルが展開された。温泉、病院、そして恐怖の館、なんでもありの展示スタイルで、壁の色もレイアウトも自由自在。また、横尾が自分で展覧会を作ると言い出したこともあった。一向に進まず困った揚げ句、「なんか適当にやっといて」と丸投げの始末。その後も、東京での大規模個展のため主要作品がごっそりなくなった学芸員のピンチを企画化した『学芸員危機一髪』など、テーマの設定と空間演出の巧みさで乗り切った。横尾の人脈を利用したイベントも盛況で、細野晴臣やミニマルミュージックのテリー・ライリーなどがライブをした。
新型コロナ感染症という未知なる敵により、展覧会が中止になってしまうなど波乱は続いているが、美術館が生き物であることをこれだけ感じさせてくれる館も珍しい。ひとえに横尾の規格外の力があってのことで、悪ふざけや、いじり倒しても笑って楽しませてくれる彼の懐の深さも忘れてはいけない。今回は30の展覧会をダイジェスト版にて圧縮展示。学芸員の血と涙の結晶を確認しよう。
『横尾忠則展 満満腹腹満腹』
期間:1月28日(土)~5月7日(日)
場所:横尾忠則現代美術館
- 電話番号078-855-5607
- 住所神戸市灘区原田通3-8-30
- 営業時間10:00~18:00(最終入場は閉館30分前まで)
- 定休月
- 料金観覧料700円
- アクセス阪急王子公園駅から徒歩6分