イラストレーターの久保沙絵子が、毎月1冊をピックアップして、勝手にその本の表紙を制作するこの企画。イラストが描き上がるまでを追いかけます。12冊目は、星 新一の短編『ボッコちゃん』。酒場のロボットと人間の会話から、欲望と愚かさを浮かび上がらせる。軽さの裏に不気味さが潜む物語です。

久保沙絵子/イラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチが特徴。雑誌やウエブなどで活躍中。
この連載もラスト1冊。
いろんな本をたくさん読んできた後に、1周回って戻ってくるような1冊を選びたいと思いました。
ユーモア満載な、星 新一さんの『ボッコちゃん』です。
短編なので、一つひとつの話はとても短いのですが、教訓も織り込まれていて、読んだ後の心に後味が濃く残り、星さんの発想と文章でページが進む1冊です。

著/星 新一
新潮文庫
優秀の美を飾りたい!ラストの勝手に表紙です。
最後の一冊にボッコちゃんを選んだのにはいくつか理由がありますが、1番は、この世界は見方を変えればあらゆる味わいができるということを短編ながら、深く感じられるからです。
「ボッコちゃん」のなかに掲載されている”おーいでてこーい”はとても有名な小説です。
ある日突然村に1メートルくらいの謎の穴が出現しました。
青年が「おーいでてこーい!」と叫んでみても反応はありません。
石をぽいっと投げ入れてみても、何も変化はありません。
日に日に大きくなる穴に、人々は古い日記や都会の汚物、原子炉のゴミなど、あらゆるいらないものを投げ入れていきました。
大きな穴にいらないものを受け入れられ、綺麗になった都会のビルの鉄骨で作業員は、空から声が聞こえてきました。
“おーいでてこーい!”。
そして空からコツンと石が落ちてきて、物語は終わります。
道を歩いて穴を見つけたら、この話を思い出して物語が始まるようで面白い気持ちになってしまいます。
毎日生きて生活する中で、あらゆることをつまらないと思えば、本当に全てつまらなく思えてしまいます。
窓から見える風景も、変な形の大根も、それが総じて人生さえも。
だけど、面白いと思えばいろんなものがひかりだします。
窓から見える風景は線画になって、変な形の大根はセクシーショットを撮られます。そして人生は、知らないうちにきらきらしてきます。
本を読むことはそんなふうに世界を面白く受け取るための心のお皿を増やしてくれる楽しい助っ人です。
今の世の中、面白いと思ってもらえるように準備された、たくさんのもので溢れかえっています。
例えばスマホゲームやバラエティ番組など。
だけど、自分で見つけて自分だけの感性で面白いと感じられるものがたくさん見つかれば、例え人に共感されずともそれは、何にもまして豊かなことです。





出版社やブックデザイナーの方の講演会をたまに聴きに行くのですが、出版関係の講演会に行くと必ずと言っていいほど出版業界は斜陽産業だという話を耳にします。
けれど、どれだけ傾いても出版界に陽は当たり続け、本は絶対になくならないとわたしは確信しています。
なんならわたしが業界を照らす太陽になりたいです。
というのはちょっと大きく出過ぎかもしれませんが、大切なのは”じゃあどうするか”ということです。
例えば、メルカリやブックオフで本を買わずに本屋さんで本を買うこと。例えばこの「勝手に表紙」のようにたくさんの人に広くおすすめの本を紹介すること。
そしてなによりわたし自身は絵を描き続けて小説ないし出版業界へのラブレターを送り続けることだと思います。
一年続けさせていただいた、この「勝手に表紙つくります」は、わたしにラブレターを書くためのペンも便箋も封筒も、すべてを一つの箱に入れて渡されたプレゼントのようなものでした。
機会をくださった竹村さん、小川さん、読んでくださった皆様に心から感謝しつつ、いつか小説の表紙になったわたしの絵とみなさまがどこかの本屋さんで出会えるよう、まだまだ描いてまいります。
本で人の心が豊かになり、この平和な日常が当たり前のものとしてずっと続きますように。
1年間、ありがとうございました!

久保沙絵子
大阪在住、雑誌やウエブなどで活躍中のイラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチの作風が特徴。線の質感にこだわり、作品はすべて一発書き! 制作は、生命保険の粗品のスヌーピーのコップで白湯を飲みながら。また、街中でスケッチすることも。もし、見かけたらぜひ声をかけてください。
- Instagram@saeco2525
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