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イラストレーターの久保沙絵子が、毎月1冊をピックアップして、勝手にその本の表紙を制作するこの企画。イラストが描き上がるまでを追いかけます。11冊目は、小説ではなく『ポケット詩集』に。

久保沙絵子/イラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチが特徴。雑誌やウエブなどで活躍中。

もうすぐ今年が終わります。
1年通して、いろんな気持ちになりました。感動したり喜んだり怒ったり悲しんだり。大人になった今でも、いろんな出来事を経て何か感じるたびに、ジワジワと心の振り幅が広がっていくように思います。

あっちにいったりこっちにいったりする心に、私はときどき疲れてしまいますが『ポケット詩集』は、そんな疲れをそっと癒やしてくれる言葉がたくさん集められた薬箱のような存在です。ぜひみなさまの本棚にも常備していただきたい1冊です。

『ポケット詩集』
編集/田中 和雄
童話屋

1人で夜ご飯を食べるのが寂しくなって友達に連絡しました。
仕事終わりの友達と夜7時にビッグマン前で待ち合わせ。
ぴったりに来た友達はリュックと別に小さなトートバッグを持っていて、「それ、お弁当?」と聞くと、「うん、お弁当」って答えました。
私は何だか愛しい気持ちになりました。
その友達のことが愛しいのか、なんでもない会話そのものが愛しいのかは分からないのですが、その時のふわりとした愛しさに似た詩があります。

草野心平さんの「秋の夜の会話」という詩です。

“さむいね”から始まり、何でもない会話が続きます。
冬眠前のカエルの会話なのですが、詩全体にどこか寂しい気配を纏っています。
けれど、寂しさの中でポツリポツリと続く会話が、小さく灯った明かりのようで、そんな静けさがすてきだなと思う詩です。

短い詩ですが解釈の仕方がたくさんありそうなので、その時々の自分の気持ちのコンディションによって味わいの変化を楽しめる詩です。

左側のフェンスの金網を描いていきます。ずっと描いているとだんだん金網の匠になっていきます。

金網が完成しました。奥のビルの輪郭を描きます。

ビルの側面を描き込んでいきます。まっすぐな線がたっぷりあって楽しいです。

ショベルカーの周辺の土や草や機材を描いていきます。

鳥が1羽飛びました。完成です。

せっかく細かく描きましたが、詩の世界を邪魔しないようにささやかに絵を添えたかったので、線を薄い黄色にしました。

今回の「ポケット詩集」で、勝手に表紙は11冊目。
私が本を読むのは単純に楽しいからというのもありますが、生活の中で自分自身の席を少しの間外れて一息入れるためのように思います。
本の中には私の知らない人がたくさんいて、悩んだり喜んだり頑張ったり挫折したりしています。
だから、本の中には世界があって私はそれを覗いている感覚です。

ですが、ポケット詩集には本の中とこの世界の考え方を反転させた詩があります。
長田弘さんの「世界は一冊の本」という詩です。
詩は、”本を読もう”からはじまります。
日の光や鳥の声、夜の窓明かりの一つひとつ、記憶をなくした老人の表情、全てが本であり、世界というのは見えない言葉で書かれた開かれた本なのだと詠っています。

私は、自分の力ではどうにもならないことを考えすぎて心をすり減らしていることが多いです。
考えごとは2通りあって、頭で考えることと心で考えることです。
頭で考えることは、夜ご飯の献立や仕事の優先順位や、そろそろ来年のスケジュール帳を買わないとなぁ、ということです。
心で考えることは、寝ている時の夢のように勝手に始まる短い映画のようなものです。
頭で考えることはキッチリと整理できていくのですが、心が勝手に考え始めるものは、解決や決意のない悶々としたものです。

だけど、この詩の終わりに”生きるとは、考えることができるということだ”とあります。

それならば、悶々と考えてしまうことも生きている実感として大切にしていけばいいのかなと思いました。

この詩のように、世界の全てが本であるという考えを心に持って周りを見渡すと、世界がとても楽しく思えてきます。
昨日半分使って冷蔵庫に残しているもやしも本、電車から見えるイズミヤの看板のある風景も本、私の絵も本、梅田を歩くたくさんの人もそれぞれが本。
全部全部、読みたいと思います。
そんな気持ちを豊かだなぁと感じます。
身の周りのあらゆることに好意的な興味を持って過ごしたい。
そして私と絵が、読みたいと思ってもらえるような本でありますようにと願います。

全ての詩に対してずっと話せるくらいにすばらしい詩が集められた「ポケット詩集」。
辛い時に頼りにするものは人それぞれさまざまですが、詩による支えられ方もすてきだなと思います。

みなさまも人生のお供にこの1冊を、どうぞよろしくお願いします。

WEB連載「久保沙絵子の勝手に表紙作ります。」は、毎週水曜更新!次回は、新作がスタート、1/7(水)公開予定です!
著者

久保沙絵子

大阪在住、雑誌やウエブなどで活躍中のイラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチの作風が特徴。線の質感にこだわり、作品はすべて一発書き! 制作は、生命保険の粗品のスヌーピーのコップで白湯を飲みながら。また、街中でスケッチすることも。もし、見かけたらぜひ声をかけてください。

  • Instagram
    @saeco2525

※過去記事は、ハッシュタグ #久保沙絵子の勝手に表紙作ります をクリック

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