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イラストレーターの久保沙絵子が、毎月1冊をピックアップして、勝手にその本の表紙を制作するこの企画。イラストが描き上がるまでを追いかけます。11冊目は、小説ではなく『ポケット詩集』に。

久保沙絵子/イラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチが特徴。雑誌やウエブなどで活躍中。

もうすぐ今年が終わります。
1年通して、いろんな気持ちになりました。感動したり喜んだり怒ったり悲しんだり。大人になった今でも、いろんな出来事を経て何か感じるたびに、ジワジワと心の振り幅が広がっていくように思います。

あっちにいったりこっちにいったりする心に、私はときどき疲れてしまいますが『ポケット詩集』は、そんな疲れをそっと癒やしてくれる言葉がたくさん集められた薬箱のような存在です。ぜひみなさまの本棚にも常備していただきたい1冊です。

『ポケット詩集』
編集/田中 和雄
童話屋

冷凍庫に小松菜とあげさんを常備していて、それでよくおみそ汁を作っています。
大雑把なもので、私の料理は私の絵の描き方とよく似ています。
大雑把だけど手先が器用なのでなんとかなる感じ。
そうしてできたおみそ汁を、ズズーーっとすすりながら”だしからとればもっとおいしいんだろうな〜”と、ちゃんとしたおみそ汁を作ってみたくなるような詩があります。
長田弘さんの”言葉のダシのとりかた”という詩です。

詩の中に、かつおぶし、鍋、強火、アクなど料理に関するさまざまな言葉が出てくるのでレシピのようにも見える詩ですが、この詩では言葉のだしをとっているのでレシピではありません。
だしの取り方はこんなにも工程が多いのかと驚きつつ、その工程で徐々に言葉が洗練されていく様子に、本当は言葉はこんなふうに丁寧に準備されて発せられてこそのものであると思い直します。
最近は”ヤバい”みたいな便利な言葉がたくさんあります。
この言葉は、この詩の対局にある言葉だと思い、避けつつもたまにぽろっと口にしてしまいます。
でもやっぱり私は、たとえば私の絵を見た人から”ヤバい”よりももう少しだけだしを取る工程を進めてもらった言葉をもらいたいです。

そして、一番怖いのが、便利で簡単な言葉ばかり使っていると、いつのまにか言葉のだしの取り方すら分からなくなってしまうことです。
たとえば、絵に描きたくなるような梅田のビルのキラキラな風景を、目の見えない人と歩いた時に、どんなふうにキレイなのか”ヤバいです!これは本当にヤバい!”って伝えても、きっと何にも伝わりません。寂しい気持ちになるだけです。
だから、本当に伝えたい時に本当に伝わる一番だしの言葉をきちんと準備する能力を身につけていたいと思いました。

フェンスの奥にショベルカーを描いていきます。まずは頭の部分から。

フェンス越しなので線をとぎれとぎれに描かなくてはならず、いつもの爽快感がありません。

ショベルカーが完成しました。

奥のビル群を描いていきます。

まだ描けていませんが、ショベルカーの周りには草や土など自然のものが多いので、バチバチの人工物であるショベルカーやビルとの対比が楽しみです。

京橋の商店街にある八百屋さんは安いので、時間のある時はぶらりぶらりとバナナとプチトマト買いに歩いて行きます。
そうやって歩いている時は、”私には今ゆとりがある。確かにここにはゆとりがある。”と実感できるのが良いです。
私は急ぐのが嫌いなので、なるべく急がなくていいようになんでも早めに済ませるタイプです。
なのですが、そうもいかないことが多くしんどくなる時もあります。
そんな時は岸田衿子さんの『南の絵本』。急がなくてもいいんだよ。どうにでもなるからね。と、気持ちを落ち着かせてくれます。
けどやっぱり現実は急がなくてはいけないこともあるので、この詩を読んで心を落ち着かせて爽やかに急ぐのです。

この詩の終わり方がとてもすてきでお気に入りです。

「いそがなくてもいいんだよ
種をまく人のあるく速度で
あるいていけばいい」

私も本当はそんなふうにゆっくり歩きたい。
今日は風が強くて寒いので、商店街には行きませんが、部屋の中で、絵を描く机で、種をまきつつ歩いていきます。

WEB連載「久保沙絵子の勝手に表紙作ります。」は、毎週水曜更新!次回は、12/24(水)公開予定です!
著者

久保沙絵子

大阪在住、雑誌やウエブなどで活躍中のイラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチの作風が特徴。線の質感にこだわり、作品はすべて一発書き! 制作は、生命保険の粗品のスヌーピーのコップで白湯を飲みながら。また、街中でスケッチすることも。もし、見かけたらぜひ声をかけてください。

  • Instagram
    @saeco2525

※過去記事は、ハッシュタグ #久保沙絵子の勝手に表紙作ります をクリック

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