イラストレーターの久保沙絵子が、毎月1冊をピックアップして、勝手にその本の表紙を制作するこの企画。イラストが描き上がるまでを追いかけます。11冊目は、小説ではなく『ポケット詩集』に。

久保沙絵子/イラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチが特徴。雑誌やウエブなどで活躍中。
もうすぐ今年が終わります。
1年通して、いろんな気持ちになりました。感動したり喜んだり怒ったり悲しんだり。大人になった今でも、いろんな出来事を経て何か感じるたびに、ジワジワと心の振り幅が広がっていくように思います。
あっちにいったりこっちにいったりする心に、私はときどき疲れてしまいますが『ポケット詩集』は、そんな疲れをそっと癒やしてくれる言葉がたくさん集められた薬箱のような存在です。ぜひみなさまの本棚にも常備していただきたい1冊です。

編集/田中 和雄
童話屋
師走、気のせいかどこもかしこも人が多くなってきた気がしています。
特に混み合う通勤ラッシュ時、谷町線の東梅田駅から阪神電車の大阪梅田駅へ向かう地下には人の流れが十字に交わる箇所があり、いつも、海流の潮目みたいだ。と思っています。
海流の潮目は魚のエサとなるプランクトンが大量に集められるのでよい漁場となるそうなのですが、この梅田の雑踏を潮目とするならば、そこでぶつかる人の気持ちがプランクトンで……、集まる魚は……??という感じで例えを考えながら歩いています。
混み合うとどうしても心に余裕がなくなり、我先にムードに疲れてしまうのですが、そんな気持ちを癒やしてくれる詩があります。
まどみちおさんの「ぼくがここに」という詩です。
まどみちおさんはみなさまご存知の”ぞうさん”の歌詞を書かれた方で、とても優しい詩ばかりです。
「ぼくがここに」は、あらゆる物の存在を温かく尊重する詩で”「いること」ことがなににもましてすばらしいこと”で締められています。
この詩を心のBGMにしながら歩くと、たくさんの人が行き交う通勤ラッシュの梅田の地下の風景も、人それぞれ大切に守られているんだ。と、それぞれの人を尊重する気持ちを失わずにいることができます。
みなさまも人混み、しんどい!と思ったら、ぜひ「ぼくがここに」を思い出してみてください。

金網を描くコツは掴んだような気がしています。




詩は、柔らかくて温かいものを目にすることが多く、つまりそれはみんながそういうものを求めているからなのだと思うのですが、ポケット詩集には戦争に関する詩も含まれています。
まえがきで、田中さんはポケット詩集について、”読み返すたびに、階段を降りていくように、真実の底にたどり着くでしょう。”と書いています。
何が正しくて何がいけないのか、はっきりと右と左に分けることができないことの多い世の中ですが、子どもたちが、戦争は絶対にいけないことだと心で理解し、世の中がどういう方向に進もうとしていようと、自分の考えを言い切れる人になりますようにという思いが込められていると感じました。
そんな思いを感じる詩の一つが、栗原貞子さんが広島で被爆した時に経験した実話をもとにして書かれた「生ましめんかな」という詩です。
原爆投下直後の凄惨な地下室で、妊婦さんが産気づき、そこに居合わせた重症の産婆が、私が生ませましょう。と言い、赤ちゃんが生まれた後に息絶える詩です。
詩なので言葉は少ないのですが、残る後味は重く、映画1本分くらいの心の消耗があるように感じました。
でも、そうやって心を動かすことが大切なのだと、素晴らしい詩や小説に出合うと実感します。

久保沙絵子
大阪在住、雑誌やウエブなどで活躍中のイラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチの作風が特徴。線の質感にこだわり、作品はすべて一発書き! 制作は、生命保険の粗品のスヌーピーのコップで白湯を飲みながら。また、街中でスケッチすることも。もし、見かけたらぜひ声をかけてください。
- Instagram@saeco2525
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