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イラストレーターの久保沙絵子が、毎月1冊をピックアップして、勝手にその本の表紙を制作するこの企画。イラストが描き上がるまでを追いかけます。11冊目は、小説ではなく『ポケット詩集』に。

久保沙絵子/イラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチが特徴。雑誌やウエブなどで活躍中。

もうすぐ今年が終わります。
1年通して、いろんな気持ちになりました。感動したり喜んだり怒ったり悲しんだり。大人になった今でも、いろんな出来事を経て何か感じるたびに、ジワジワと心の振り幅が広がっていくように思います。

あっちにいったりこっちにいったりする心に、私はときどき疲れてしまいますが『ポケット詩集』は、そんな疲れをそっと癒やしてくれる言葉がたくさん集められた薬箱のような存在です。ぜひみなさまの本棚にも常備していただきたい1冊です。

『ポケット詩集』
編集/田中 和雄
童話屋

ポケット詩集を薬箱と表現してみました。
熱が出た時にオロナインは塗りません。
熱が出たらパブロン、頭痛にはバファリン。
こんなふうに、ポケット詩集にはその時々の心の傷口にきちんと密着してくれる詩が集まっています。
だから、頭の片隅に”そういえばあんな詩があったな……。”ということを覚えておくといいです。苦しい時に読んでみるとちょっとだけ生きやすくなります。

ポケット詩集を手に取ったらまずは絶対に、まえがきを読んでもらいたいです。
編集者の田中和雄さんが書かれたものなのですが、この文章が、これから出合うたくさんの詩を自分の心に引き寄せる意味を理解するきっかけになります。
私はこの文章で2回泣きました。
涙の理由は一つではないですが、一番は”拠り所、ここにあった!”という安心感のようなものでした。

詩に絵を添えてしまうと、絵が詩の自由さを邪魔してしまうような気がしてしまいますが、今回はどうしてもこの本に向けた絵を描きたかったので、お邪魔します!という気持ちで、描いていこうと思います。

描いていく風景は、フェンス越しに見た工事現場です。
これは、今年の9月の雨の日に見つけた風景です。
雨でぐちゃぐちゃになってしまった心を、クレーンで片付けていくイメージで描いていきます。
 

一番手前にあるフェンスから描いていきます。
今回の絵は、フェンスの向こうに工事現場があり、その奥にビルがいくつか建っており、重なり方が複雑です。

まっすぐまっすぐフェンスの枠を伸ばしていきます。

何かの部品がつきました。どんな名前で、どんな役割を果たすかも何も分からない、未知の部品です。

金網の部分を描いていきます。どうやって描けば良いのか分からず考えたのですが、結局何も策がなかったので強行突破で進めていきます。

金網の向こうには、これからごちゃごちゃした風景を描いていくので、この金網は絵が完成すればあまり目立たなくなると思うのですが、ただ、今の私の楽しみのために描いていきます。

私は茨木のり子さんの詩が好きで、「ポケット詩集」と同じ童話屋さんからの出版の「おんなのことば」という詩集を持っています。
「おんなのことば」には茨木さんの詩ばかりたくさん掲載されていますが「ポケット詩集」には、私が1番好きな茨木さんの「汲む」という詩と、1度は誰でも聞いたことがあるかもしれない「自分の感受性くらい」という詩の二つが入っています。

私は”汲む”という詩をお守りにしています。
いろいろとうまくいかない、うまくできないことが重なって自分のことを見限ってしまいたくなるような時に”そのままで大丈夫ですよ。”と言ってくれるような詩です。
この詩の中に”頼りない生牡蠣のような感受性”という言葉が出てくるのですが、私はこの言葉がとても気に入っています。
頼りないものの例えは、これまでいろんな時代にいろんな方がされてきたと思うのですが、茨木さんのこの言葉選びには誰も敵わないだろうという気がします。

3年前くらいにわたしがiPadを購入した時、お気に入りの言葉をApple Pencilに刻印してもらうキャンペーンをしていて、わたしのApple Pencilには”生牡蠣のような感受性”と刻印してもらいました。
目に入るたび”汲む”という詩を思い出しています。

ポケットに入れても本が傷みにくい、丈夫な装丁の「ポケット詩集」なのですが、私がよく聴く歌手である折坂悠太さんのインスタライブのストーリーで、この詩集がちらりと映り込んだことがあり、”あっ、ポケット詩集!お揃い!♡”と思いました。
詩は、検索すると画像で出てきてしまったりするのですが、検索しないでぜひ本屋さんに行ってください。
同じ本を持ってるって、なんだか嬉しいことです。
そしてこの文章も、ポケット詩集の言葉を味わいつつ、読み進めていただきたいです。
どうぞよろしくお願いいたします!

WEB連載「久保沙絵子の勝手に表紙作ります。」は、毎週水曜更新!次回は、12/10(水)公開予定です!
著者

久保沙絵子

大阪在住、雑誌やウエブなどで活躍中のイラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチの作風が特徴。線の質感にこだわり、作品はすべて一発書き! 制作は、生命保険の粗品のスヌーピーのコップで白湯を飲みながら。また、街中でスケッチすることも。もし、見かけたらぜひ声をかけてください。

  • Instagram
    @saeco2525

※過去記事は、ハッシュタグ #久保沙絵子の勝手に表紙作ります をクリック

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