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神戸・元町四丁目の本屋[本の栞]を営む、
田邉栞さんの日々のブックマーク

Vol.34 
「夢のパンケーキモーニングプレートよ、さらば」

text and photo/田邉 栞(たなべ しおり)
神戸で[本の栞]という本屋をやっています。次回の店内イベントは12月21日(日)、広島よりオカダノリコさんを迎えてライブを開催します。Instagram@honnosiori

10.6 mon.

 起きてベッドの上でゴロゴロとスマホを見ていると、母から[ロイヤルホスト]のモーニングのお誘い。お腹の空き具合は微妙だったが、念願のロイヤルチャンス、逃すわけにはいかない。そそくさと店に向かいながらメニューを確認して気がついたのだが、モーニングのメニューがいつの間にか、おそらくはすこしまえの値上げのタイミングで変わっていて、セットのパンをパンケーキに変更することができなくなっていた……。あれがロイヤルモーニング最大の魅力だったのに。野菜とチーズのオムレツがなくなっていないだけまだいいかあ。大いにがっかりしつつ、普通のモーニングプレートに追加で単品パンケーキも注文してやった。
 お腹いっぱいで出勤するも、とくに急ぎの作業もなく、穴みたいな時間が生まれたので店の外の植物の剪定(せんてい)。オリーブ、とてもすっきりとしたが、させすぎたかもとややしんぱい。しんぱいな顔をして枝を見ていたら、背後にでっかい車が停まったのを感じ、しんぱい顔のままなんとなくそちらを見やると車越しに友達が微笑んでいた。えっ、こんにちは~! と言うと、友達は微笑んだまま黙って発進していった。


 
 発注していた『柄シャツ以降』が届いたのでぱらぱらめくる。先日、『セックス・ソバキュリアン』の若鮎さんが来てくれたときにこのZINEの著者の話になり、半年ほど前に営業メールをいただいていたのを思い出したのだ。毎日いろいろな本の紹介メールが届くので、パワーがないときはつい詳細の確認を後回しにしてしまう。そして日々に押しやられ、忘れていってしまう。すみません。ほんとうに、すみません。つまみ読んでいると書き手の性別がなかなかわからず、もちろん性別や人となりなんかわからずとも日記は読めるのだが、でもなかなか上手く映像が浮かんでこない。自分はまだかなりレッテルにとらわれていると思う。哲学対話のことや、出町座『きみの鳥はうたえる』を観た記憶とか、くるり柴田聡子のライブとか、同い年とか、なんとなくシンパシーを感じつつまた適当なページをひらいたら(日記本はこれができるのがいい)、ちょうど性別について言及している内容のところだった。一人称などは意識してどちらかわかりづらくしているとのことで、意図的なものがあったのかと腑(ふ)に落ちた。

『柄シャツ以降』=リトルプレスなどを製作する瀧本 緑が2024年11月に出した日記集。
出町座=映画、書店、カフェを併設する京都の文化施設。
『きみの鳥はうたえる』=佐藤泰志の同盟小説を三宅 唱が映画化。函館を舞台に3人の男女の日々を描く。
くるり=京都発のロックバンド。今年20回目となる野外音楽イベント「京都音楽博覧会」(音博)も主催。
柴田聡子=バンド・サウンド・弾き語りを主とするシンガーソングライター。詩作なども行う。

 あと何回、これを繰り返せるのだろう。繰り返し繰り返ししていたらいつまでも続く気がするけど、終わる時は突然終わる。そんな気分でいたことさえ忘れさせるように。それを受け入れられるのかな、と思うけど案外受け入れられるのだろう。それすら見据えてしまう。見据えることができる。大豆田とわ子で出てきた、「過去も今も未来も全て同時に起こっていること」という考え方に救われる。いつか音博には行けなくなるが、行けなくなった時間にも実は音博に行っている。母との思い出は思い出ではなく今になる。だから今の総数を増やしにかかる。全ての出来事に対してその態度で臨む。
(『柄シャツ以降』瀧本 緑)

 わたしも『大豆田とわ子』のこのエピソードと考え方が本当に大好き。そういえば、植本一子さんがエッセイに闘病している猫と家族で毎日写真を撮っていたことを書いていて、それにならって、昨日はじめて飼い猫とパートナーと3人で写真を撮った。パートナーに撮る理由を話したら、いつかこの写真を見て寂しくなるときも来るのかな、と言っていたことを思い出した。
 今日もお客さんが全然来なかったが、まあそんな時期もあるわなぐらいの心持ちでいられている。今のところはまだ。さっさと閉めて帰ろうとしていたらまた車から呼び止められ、今度は誰だと思ったら店の常連さんだった。一日に二度もそんなことが起きるかね。

『大豆田とわ子』=坂元裕二によるオリジナル脚本のドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ)。
植本一子さん=写真家、エッセイスト。近刊は「わたしの現在地」と銘打ったエッセーシリーズの第2弾『ここは安全な場所』。


店舗情報
神戸・元町
本の栞
  • 電話番号
    080-3855-6606
  • 住所
    神戸市中央区元町通4-6-26 元村ビル1F北
  • 営業時間
    12:00~19:00
  • 定休日
    水・木&不定
  • カード使用

※【連載】栞の栞の過去記事は、ハッシュタグ #栞の栞 をクリック。

※この記事は2026年1月号からの転載です。記事に掲載されている店舗情報 (価格、営業時間、定休日など) は掲載時のもので、記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認の上お出かけください。

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