イラストレーターの久保沙絵子が、毎月1冊をピックアップして、勝手にその本の表紙を制作するこの企画。イラストが描き上がるまでを追いかけます。10冊目は、嶽本野ばらの『それいぬ 正しい乙女になるために』に挑戦。

久保沙絵子/イラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチが特徴。雑誌やウエブなどで活躍中。
ポップな表紙と”正しい乙女になるために”という副題から、一見メルヘンなエッセイに見えるのですが、初めの短いエッセイを一つ読むだけであっという間に引き込まれてしまうのは、野ばらさんの文章が独特な寂しさをまとっているからだと思います。
野ばらさんは男性ですが、乙女チックで品のある独特な文章も面白く、繊細な心で捉えた出来事の一つひとつは野ばらさんの中でこんなふうにこされていくのかという発見があり、乙女にも乙女じゃない人にも読んでいただきたい1冊です。

著/嶽本野ばら
文春文庫
「芸術は夜作られる」という言葉がありますが、わたしも絵は、夜にガッと描くことが多いです。
そんな”時間”についてのエッセイが「朝のデカダンス」というタイトルで書かれています。
デカダンスという言葉の意味を調べると、”道徳的社会的な衰退や堕落””芸術や文化が過度に洗練され、本来の目的や価値から逸脱した状態”と出てきました。
なんだか難しいなと感じでしまいましたが、一旦納得しておきます。
エッセイの内容はこんな感じです。
“昔は、夜は特権的な時間であったが、最近は夜になっても街は人で賑わい、そんな人たちは夜が持つ迷信の力を利用する小賢しいエセ不良である。夜はもうそんな人たちに支配されてしまったので、私たちは行き場を失ったデカダンスを、俗悪な夜から清楚な朝に設定してみよう。”
わたし自身は、夜の迷信に助けられているだけなので、”小賢しいエセ不良”の方だな。と思いました。
“雰囲気のある人”なんて言い方がありますが、夜は、朝や昼より雰囲気が濃い気がします。
わたしの絵の制作は14時〜16時くらいまでが魔の時間で、全く集中できなくなります。
それは、その時間帯の持つ雰囲気が薄いからなのかも…。と、エッセイを読んで思いました。
“朝のデカダンス”とは真逆ですが、わたしはまだ、わたしのデカダンスを夜に開放していきたいと思います。
九時就寝の五時半起床が一番カッコいいライフスタイルだと書いた野ばらさんはこのエッセイを
「ぼ、僕も頑張るので、貴方も努力してみて下さい。」と、締められていました。
頑張れなさそう。
野ばらさん、かわいらしい方です。





野ばらさんの文章には”小賢しいエセ不良”みたいな、ちょっと棘のある表現がたくさん出てきます。
ディズニーランドのことを”はりぼて帝国”と言ったり「乙女・失格」というエッセイでは、自分が好きな男の子は他の女の子のことが好きで、その女の子のことを嫉妬してしまうという乙女の悩み対して、”嫉妬するからにはとことん嫉妬しなくてはいけない。どんなに醜い感情だって、極めれば芸術にまで昇華するのです”と答えていました。
嫉妬そのものは醜い感情であるけれど、前向きな嫉妬は人を美しくするから、大いにねたみ、ひがみ、そねみ、それを動力として世界を変えていきなさいということで……。
棘がありつつもどこか優しくて、そんなところも野ばらさんの魅力だな〜。と思います。
先ほどから、エッセイの内容を要約していますが、エッセイの面白さは、その作家さんの言葉選びや表現の個性が小説よりも表面に出やすいというのもあると思います。
なので、要約してしまうのはちょっと勿体無い。
ぜひ、野ばらさんご本人の言葉を読んでみてもらえたらと思います。

久保沙絵子
大阪在住、雑誌やウエブなどで活躍中のイラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチの作風が特徴。線の質感にこだわり、作品はすべて一発書き! 制作は、生命保険の粗品のスヌーピーのコップで白湯を飲みながら。また、街中でスケッチすることも。もし、見かけたらぜひ声をかけてください。
- Instagram@saeco2525
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