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「佐野さんとの共演で、
役の心の距離感も測れました」

『麦ふみクーツェ』、『ある一日』など作品を発表するごとに独特の表現と視点が注目される作家、いしいしんじが2001年に刊行した小説をアニメ化した今作。主人公・ジュゼッペが出会い、恋に落ちたヒロイン・ペチカを演じるのは上白石萌歌さん。歌手・adieuとしても活動する彼女に本作とペチカへの思いを語ってもらいました。

SAVVY2025年12月号に掲載のインタビュー記事をWEB限定で本誌未掲載カットでお届けします。

曲もキャラクターもとにかく魅力的です!

編集部(以下・編) 声優としてすでに『未来のミライ』などを経験されていますが、”声優“として今回はどう向き合われましたか?
上白石萌歌(以下・上) 声のお仕事というのは何度やってもチャレンジングなことで、表情や体を使ってお芝居しているのとは違った筋肉を使うので、今回も緊張感がありました。元々、いしいしんじさんの本も好きで『トリツカレ男』の原作本も存じ上げていたので、まず絵コンテや素描から見せていただいて、こんな風な作品に私は息を吹き込むんだってイメージができました。
編 上白石さん演じるペチカというキャラクターは客観的にどう映りましたか?
上 彼女はとても寒い国からやってきて、病気のお母さんがいたり、自身に大きな秘密を抱えています。そんな彼女がジュゼッペという好奇心旺盛な男の子と出会って、徐々に心を開いていく……。知らない街にやってきて暮らす寂しさはちょっと理解できましたし、やがて信頼できる人と出会ってからの、心の変化と抱えている秘密に関しては、もっと深掘りしたい女の子だなと演じながら思いました。
編 ペチカの声を演じるにあたっての髙橋監督のアドバイスで印象に残ってることは?
上 ペチカは向き合う人によって見え方が変わる女の子でもあるので、そこを想像しながら一緒に考えましょう、と言われてなるほどなぁって思いました。でも、がちがちに固めることなく、私なりの解釈で自由にやらせていただいたのをうまくディレクションしてくださったので演じてて心強かったです。
編 今作はミュージカル要素もありますが、劇中歌について、またAぇ! groupの佐野晶哉さん演じるジュゼッペとのやりとりはいかがでしたか?
上 Awesome City Clubさんに作っていただいた曲はアフレコをする前にいただいて歌を収録したんですが、歌詞や曲で、その時点ではおぼろげだったペチカというキャラクターの輪郭がつかめました。どの曲もすてきで映画のテイストにうまく溶け込んでいながらもしっかりと主張しているなと思いました。『ファンファーレ〜恋に浮かれて〜』という曲が佐野さんとのデュエット曲なんですが、歌は別々に収録したのでお会いしていなかったんです。でも、アフレコ収録時、1日だけ初めてお会いしたんですね。その時、佐野さんに、お互いの役の感じをつかみたいから一緒に歌ってみませんかと言われて歌ってみたんです。ちょうどアフレコする場面もペチカとジュゼッペの出会いのシーンだったので、お互いにキャラクターの心の距離感が測れたような気がして、とても貴重な1日でした。
編 今作はキャラクターやビジュアルも独特なテイストで印象的ですが、上白石さんがビジュアル的に好きなシーンはありますか?
上 とにかく全体を通しての作画がかわいかったですよね。原作本からジュゼッペにしろペチカにしろ、こういうキャラクターになったんだって愛おしくなりました。私がビジュアル的に好きなのが、ペチカが自転車を押しながらジュゼッペと歩くシーンですね。二人の会話の中にペチカの内なる願望がさりげなく浮かび上がるんですが、その時の作画がとても好きです。そして四季が流れていくビジュアルもとても好きで、その場面を額装して家に飾りたいほどです。

レコードと古切手にとりつかれています

編 上白石さん自身は過去や現在、とりつかれているものはありますか?
上 今もとりつかれているのはアナログレコードですね。昔から地道に集めています。父親が持っているものを譲ってもらったり、CDだったのをアナログで買い直したり。音楽に触れていたい時は、家にあるプレーヤーで聴いてます。針を落とす瞬間もとても好きですし、レコードジャケットのアートワークも好きで、これからもとりつかれてると思います(笑)。そして今だと古切手です。お気に入りの切手を携帯カバーにも挟んでたりするんですが、元々切手が好きで、今でも友人に切手を貼って手紙やはがきを送るのが好きなんです。タイミングが合えば古本屋さんをのぞいて気に入ったものをせっせと買い集めてます。
編 改めて読者の方にメッセージを。
上 まじりけのない清らかな水のような作品だと思います。何かにとりつかれている、幅広い年代の方たちに見ていただいて、人のことを思って動くジュゼッペの姿を焼き付けて欲しいですね。

Profile
上白石萌歌
MOKA KAMISHIRAISHI
2000年生まれ、鹿児島県出身。2012年に俳優デビュー。2017年、歌手「adieu」としての活動もスタート。主な出演作にドラマ『義母と娘のブルース』(2018年〜)、大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(2019年)、映画『366日』(2025年)などがある。

MOVIE INFORMATION
11月7日(金)公開

ひとたび何かに夢中になると、ほかのことが目に入らなくなってしまうことから“トリツカレ男”と呼ばれる青年ジュゼッペ。そんな彼が風船売りの少女ペチカに恋をした。彼女と仲良くなるため、相棒のハツカネズミ・シエロと作戦を練る。が、ペチカが心に悲しみを抱えていることを知り、ジュゼッペはこれまでとりつかれた数々の技を使ってこっそり解決していく。

©2001 いしいしんじ/新潮社 ©2025 映画「トリツカレ男」製作委員会

原作/いしいしんじ『トリツカレ男』(新潮文庫) 監督/髙橋 渉
出演/佐野晶哉(Aぇ! group)、上白石萌歌 ほか
上映館/T・ジョイ京都、大阪ステーションシネマ、OSシネマズミント神戸
音楽/atagi(Awesome City Club) 主題歌/Awesome City Club 「ファンファーレ」
アニメーション制作/シンエイ動画 配給/バンダイナムコフィルムワークス
[映画『トリツカレ男』公式HP]

写真/コーダマサヒロ 取材・文/仲谷暢之(アラスカ社)

※この記事は2025年12月号からの転載です。記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認の上お出かけください。

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SAVVY12月号「温泉と、ホテルステイ」
発売日:2025年10月23日(木)定 価:900円(税込)