イラストレーターの久保沙絵子が、毎月1冊をピックアップして、勝手にその本の表紙を制作する企画。イラストが描き上がるまでを追いかけます。9冊目は、リチャード バックの『かもめのジョナサン』。群れの常識にとらわれず“もっと自由に飛びたい”と願うカモメの成長と挑戦を描いた物語で、世界4000万部を超えるベストセラー。

久保沙絵子/イラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチが特徴。雑誌やウエブなどで活躍中。
ジョナサンは、飛ぶことに生きる喜びを見いだしたカモメ。好きなことにまっすぐに生きる爽やかさと困難を、絵を描いている自分自身と重ねて読んだ作品です。そして、飛ぶことそのものだけでなく、飛ぶことの意味とそれを超える次元にまで好きなことを突き詰めたジョナサンが残した意志を、後世がどう受け取り残すかというところも見どころです。忙しい毎日の中でも、大好きなことに夢中になっている時の爽やかさを思い出させてくれる1冊です。
著/リチャード バック 翻訳/五木寛之
新潮文庫
群れから追放され、ひとりぼっちで飛ぶ歓びにどっぷりとひたるジョナサンでしたが、ある日の飛行中、2羽のカモメと出合います。
2羽のカモメはジョナサンをもっと高いところへ、本当のふるさとへと案内するためにやってきたと言います。
そうして先導されたジョナサンが行き着いた先は、天国でした。
ここで、あぁジョナサンは死んでしまったのか……。と思うのですが、読み進めていくうちにこの”天国”とは、”境地を悟ったカモメたちの世界”というような場所だということが分かります。
悟るたびにもう一つ上の世界へと移っていき、それを繰り返す場所がこの物語の天国なのです。
このあたりから物語は哲学的、宗教的な趣が強くなっていきます。
疑問に思う箇所があっても、構わずサラリと読み進めていきます。
天国では、ジョナサンのように飛ぶことが生きる喜びであると心で理解しながらさらに飛ぶことを探求するたくさんのカモメが飛行の練習に明け暮れていました。
そこで出合ったのがチャンという名前の長老カモメです。
チャンはジョナサンよりもさらに高い次元で飛ぶということを悟ったカモメでした。
現実とは……、に続く言葉はネガティブなものが来る気がするのは、私の人生へのイメージの反映なのかなとふと思いました。日々を楽しく過ごしていますが、私は楽観的な人間ではない気がしています。
アシがあしらわれていますって……、ふふふ。
この小説は、探求から宗教が生まれ、その想いが継承されることによって形を歪ませていく過程を描いた物語なのですが、カモメたちが悟り、次の次元の世界へと移っていく様子は、僧階が上がるにつれてお坊さんの袈裟の色が変化していくことと似ているなと思いました。
ちょっと前に東京の博物館で観たミイラ展では、世界各国のミイラが48体展示されており、その展示のトリを飾っていたのが即身仏でした(即身仏とは、厳しい修行の末に自分の体をミイラ化させた僧侶のこと)。その即身仏は、僧侶の最高位の色である、とても綺麗な緋色(赤色)の袈裟を着ており、ボーッと眺めていると、手を合わせたくなる気持ちになりました。お葬式の場面でしか宗教を意識できないような私でも、圧みたいな何かを感じたのは、悟った人がまとう圧倒的な雰囲気だなぁと思いました。
展示を見終わると出口に続いてミュージアムショップがありますが、ミイラ展でも漏れなく図録やクリアファイル、ぬいぐるみなど、なんだかシュールな様子のグッズが並んでいました。ミュージアムショップって楽しいです。私はノートを買いがちです。

久保沙絵子
大阪在住、雑誌やウエブなどで活躍中のイラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチの作風が特徴。線の質感にこだわり、作品はすべて一発書き! 制作は、生命保険の粗品のスヌーピーのコップで白湯を飲みながら。また、街中でスケッチすることも。もし、見かけたらぜひ声をかけてください。
- Instagram@saeco2525
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