イラストレーターの久保沙絵子が、毎月1冊をピックアップして、勝手にその本の表紙を制作する企画。イラストが描き上がるまでを追いかけます。8冊目は、リチャード バックの『かもめのジョナサン』。群れの常識にとらわれず“もっと自由に飛びたい”と願うカモメの成長と挑戦を描いた物語で、世界4000万部を超えるベストセラー。

久保沙絵子/イラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチが特徴。雑誌やウエブなどで活躍中。
ジョナサンは、飛ぶことに生きる喜びを見いだしたカモメ。好きなことにまっすぐに生きる爽やかさと困難を、絵を描いている自分自身と重ねて読んだ作品です。そして、飛ぶことそのものだけでなく、飛ぶことの意味とそれを超える次元にまで好きなことを突き詰めたジョナサンが残した意志を、後世がどう受け取り残すかというところも見どころです。忙しい毎日の中でも、大好きなことに夢中になっている時の爽やかさを思い出させてくれる1冊です。
著/リチャード バック 翻訳/五木寛之
新潮文庫
ジョナサンは、物語のはじまりから早速飛行の練習をしています。
他のカモメたちが生きるために食べ物を得ようとする中、ひたすら飛んでいます。
「目を細め……」「息を凝らし……」などの描写がたくさん出てきますが、ほとんどの小説で人間で想像するところが全てカモメなので、なんだか新鮮です。
作者のリチャードバックは飛行機乗りだったので、飛ぶことの気持ち良さとその時の体の様子を実体験から書くことができたのかなぁと思います。
今回、好きなことをまっすぐに突き詰めるジョナサンの生き方のような”突き詰める系”の絵を描こうと決めました。
私の絵においての”突き詰める”とは、よく観察して手間を惜しまず線にする”ということなので、描くのが大変なモチーフを描こうと思いました。
候補は、ザル、アサリ、チラシまたは新聞紙です。
ザルは、金網が規則的に交差していて描くのが大変。交差しながらカーブになっているところも大変。描き方が分からなかったのでサンプルでいくつか描きましたが、描くのに3カ月くらいかかるな。ということで今回は断念。
アサリは、一つひとつ模様を描くのが大変。いろんな柄のアサリがボウルに入っている様子はザ・多様性。という感じですてきですが、単調なので飽きてしまうと思い断念。
そして残ったのが、チラシ・新聞紙でした。
実家に行って、チラシ置き場を漁らせてもらって、新聞紙と電化製品、質屋、スーパーのチラシを持ち帰りました。
どれも描くのは間違いなく大変なので良かったのですが、チラシ・新聞紙とカモメのジョナサンがうまく結びつかず、カモメのジョナサンの表紙がチラシはあまりにも無理があるなぁ。と思い、ひらめいたのが、新聞紙を切り貼りしてカモメの形にして描いたらいいんじゃないかということでした。
今回は新聞紙の好きな箇所を切って、カモメの形に貼り絵にしたものを線画にしていこうと思います。まずは貼り絵からスタート。
さらに、スギ薬局の15%OFFのクーポンがあり、貼ろうか、貼らまいかと悩みましたが、貼りませんでした。このクーポンは使うので貼ってはいけません。
こんな鳥の形の島があって、こんなふうに地図になっていたら面白いなと思いました。
この島の人は多分鳥を神様みたいに扱って、大切にしそうです。
飛ぶことに熱中するジョナサンは、両親に呆れたり心配されたりします。
これは私も大いに自分の経験と重なる部分があります。
新卒で入った会社を2年足らずで辞めてしまい、バイトをしながら実家で絵を描く日々、好きなことを続けることに、もちろん理由なんていらないのですが、先行き不安な私の姿を両親がどう思っていたかは察していました。
絶対に絵で食べられるようになる!というような方向の熱意でなく、楽しいから描く。この風景も描きたいから描く。そんな気持ちだけがあって、私の中にも確かにジョナサンがひそんでいるな。と思います。
小説の初めに「われらのすべての心に棲むかもめのジョナサンに」という一文が添えられています。
私の周りの人の中のジョナサンは何を見つめていますかと、聞きたくなりました。

久保沙絵子
大阪在住、雑誌やウエブなどで活躍中のイラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチの作風が特徴。線の質感にこだわり、作品はすべて一発書き! 制作は、生命保険の粗品のスヌーピーのコップで白湯を飲みながら。また、街中でスケッチすることも。もし、見かけたらぜひ声をかけてください。
- Instagram@saeco2525
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