interview

 終戦80年という節目の年に、すさまじい映画が誕生した。『宝島』はアメリカ統治下にあった時代の沖縄を、この上なく熱くリアルに描き出した大作だ。主演という大役を果たした妻夫木 聡は、現在告知のために自ら全国を奔走中。彼と好対照なキャラを演じた窪田正孝も加わって、本作にかける思いを聞くことができた。本誌未公開カットでお届け。

沖縄を描いた話
だけど「みんなの話」でもある

編集部(以下・編) 『宝島』を観た後は本当に、しばらく頭を切り替えられないほど、すごい映画体験ができました。二度の撮影延期を乗り越えて、完成して良かったです。
妻夫木(以下・妻) 結果論ではあるけど、逆に時間を与えられた気がしています。(製作開始の)2019年にそのまま進めていたら、ここまでの厚みは出なかったかもしれない。戦後80年にあたる今年に公開できることになり、偶然は必然だったというか、全ては導かれていたんじゃないかと思います。
編 特に二人が10分以上にわたって、互いの気持ちを吐露するクライマックスは、まさに「沖縄の叫び」のようで圧倒されました。
妻 グスクは刑事でレイはヤクザと、歩いている道は違うけれど、沖縄を守りたいという方向は一緒なんですよ。だからこそ切ないというか、歯がゆい部分があって。
窪田(以下・窪) 沖縄と(失踪した英雄)オンという存在が、血のように二人をつないでいるんですよね。行く道は違ったけれど、その先はどこかでつながっているんだということを、演じながら感じられました。
妻 台本には書かれてない二人の歴史が、走馬灯のようにワーっと入ってきて、演じながらぐっと来ていました。それは窪田くんがレイだったからというのも、確実にあったね。言い方が良くないけど、本当に役者バカで(笑)。撮影は1日だけじゃないのに、いつも後先考えずに全力投球なんです。「明日、声出ねえぞ?」って思いながらも、そんな窪田くんとの芝居ではいろんなことが泣けてきて、本当に芝居は生き物だなと思いました。
窪 こういう歴史を扱った作品で主役を張るのは、妻夫木さんには結構プレッシャーだったと思うんです。お芝居の経験値だけじゃなく、人間的にも器が大きくて、物理的にも精神的にもみんなからの熱量を受け止められる防波堤のような人じゃないと、グスクはできない。逆に言うと、僕には無理です(笑)。特にコザ暴動の時のグスクの叫びと表情は、作品の全てを物語っていると思いました。
編 試写を観た沖縄の人たちが「作ってくれてありがとう」と伝えてきたそうですね。
妻 それは本当にうれしいことでした。多分その人たちの中で『宝島』という作品が、これからも続いていくということだから。これは激動の時代の沖縄を描いた映画だけど、日本全体の話であり、みんなの話なんです。

編 取材前に妻夫木さんと名刺交換させていただいたのですが、作品の宣伝で特注の名刺を作った俳優さんには、初めてお会いしました。
妻 本来あるべき映画の宣伝って、直接各地に作品を届けにいって、「こういう想いで作りました」と語って、観客と共感・共鳴する場を作ることじゃないか?と、撮影中から考えてました。映画って、人に観てもらって初めて完成するものだから。実際にこうして回ってみると、宣伝も映画作りなんだと改めて思いましたし、やっぱりやっていて楽しいです。
窪 決して軽い内容じゃないこの映画に、多くの人に足を運んでもらうには、妻夫木さんのこの選択しかなかったと思います。人と人が交わることで生まれるものを、すごく大切にされているのがわかるし、映画の宣伝って本来そうあるべきという気がしますね。撮影現場でもそうでしたけど、先導を切って『宝島』の旗を大きく振ってくれる先輩だからこそ、自分たちも着いていけたと思います。

編 関西で行ってみたい場所はありますか?
妻 京都や大阪は、好きな場所やお店がいっぱいありますけど、今は子どもが小さいこともあって、あまりのんびりできないんですよね。今はいろいろため込んでおいて、一緒に行ける日が来たら、全部一気にワーッ! とやろうと思っています。
窪 ずっとマークしているのは、丹波篠山です。自然もあるけれど、おしゃれなカフェとかもいっぱいあるらしいので、ぜひ行ってみたいです。
編 どちらも遠からず、実現できたらいいですね。最後に読者に、見どころなどをお願いします。
窪 日本人として、日本にもう一度立ち戻れる作品だと思います。自分の人生の色が何かしら変わったり、何かの助けになっていく映画だと思うので、ぜひ観ていただきたいです。
編 僕はこの映画をやったことで、死生観が変わりました。死は終わりを意味するのではなく、実はどこかで一緒に生き続けてるんじゃないかと思うし、先人たちの想いを感じることで輝ける瞬間がある。今を生きる人たちに、そういう想いを伝えていきたいし、それで未来の形もほんのり変わるんじゃないか? という期待もあります。今だからこそ知っておかなきゃいけないモノも絶対ある映画なので、観てもらえたらうれしいです。

妻夫木 聡
SATOSHI TSUMABUKI
1980年生まれ、福岡県出身。1998年に俳優デビューし、2001年に映画『ウォーターボーイズ』でブレイク。2009年のNHK大河ドラマ『天地人』など、多くの映像作品や舞台で主演を務める。2010年に『悪人』、2022年に『ある男』で、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞。NHK連続テレビ小説『あんぱん』に出演中。

窪田正孝
MASATAKA KUBOTA
1988年生まれ、神奈川県出身。近年の主な出演作に、映画『本心』『悪い夏』『愛にイナズマ』、ドラマ『宙わたる教室』など。2022年に映画『ある男』で、日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞。2025年10~11月に、主演舞台『チ。-地球の運動について-』が全国5カ所で上演予定。

MOVIE INFORMATION
『宝島』
9月19日(金)公開

「戦果アギヤー」として英雄視されたものの、米軍基地で行方をくらませたオン(永山瑛太)を探す刑事・グスク(妻夫木)、教師・ヤマコ(広瀬すず)、ヤクザ・レイ(窪田正孝)。この3人を軸に、終戦から1972年まで米国統治下にあった沖縄の壮絶な過去と、オンの行方を巡るミステリーが交錯していく。

監督/大友啓史 
原作/真藤順丈『宝島』(講談社文庫) 
出演/妻夫木 聡、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太 ほか 
劇場/T・ジョイ京都、T・ジョイ梅田、OSシネマズミント神戸 ほか
映画『宝島』公式サイト

※この記事は2025年10月号からの転載です。記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認の上お出かけください。

写真/竹田俊吾 取材・文/吉永美和子 妻夫木 聡:ヘアメイク/勇見勝彦(THYMON Inc.) スタイリスト/菊池陽之介 窪田正孝:ヘアメイク/菅谷征起 (GÁRA) スタイリスト/稲垣友斗(CEKAI)

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