kubosakiko_EC_8_3-100

イラストレーターの久保沙絵子が、毎月1冊をピックアップして、勝手にその本の表紙を制作する企画。イラストが描き上がるまでを追いかけます。8冊目は、末並俊司の『マイホーム山谷』。日雇い労働者の街・山谷を舞台に、貧困や労働、住まいの問題を描いた作品です。

久保沙絵子/イラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチが特徴。雑誌やウエブなどで活躍中。

日本三大ドヤ街のひとつである東京の山谷地区で、ホームレスや困窮者の最後のより所となるホスピス「きぼうのいえ」を設立した山本さんの姿を取材し描いたノンフィクション小説です。
信念を持って、困窮した人を支援する側だった山本さんが心を病み生活保護自給者となり、支援される側になっていった様子は、美談とは言い切れないけれど、人間らしい現実味をありありと含みつつ、貧困や孤立は決して人ごとではないと確信した時に、福祉という観点から、どういう社会であって欲しいかを考えるきっかけになる1冊です。

『マイホーム山谷』
著/末並俊司
小学館

妻の美恵さんと、ホスピス設立の夢に向かって動き出した山本さんは、自身と恵美さんの貯金と合わせ、膨大な額の銀行からの借入と支援者の寄付によりきぼうのいえを設立することができました。

設立後の収入は入居者から受け取る入居費が主だったので、毎月数十万円の赤字は寄付や補助金でまかないながらの運営でした。

入居者のケアも手探りの始まりでしたが、山本さんはある入居者との出会いにケアの本質を見ます。
山谷の路上で住んでいたものの体を壊し入院、退院後にきぼうのいえに入居した当時83歳の田代さんは、嚥下障害を持っており食事の飲み込みがうまくできませんでしたが、日々ヘルパーの職員が田代さんの様子をそばで見守り、施設の机ではうまく食事ができない田代さんが路上で食べるとスムーズに食べられることに気づきました。
そうして田代さんのみ特別に、施設前の路上にちゃぶ台を出し、日なたぼっこをしながらの食事介助をしていました。
長い長い路上生活での名残りを尊重しながらのケアでした。

みんなから”おやじ”と呼ばれて慕われていた田代さんが施設のベッドで最後を迎えるときの言葉は”ありがとう”でした。
山本さんは、その言葉にはきぼうのいえで過ごした全てがら詰まっていると感じ、入居者にあったケアの大切さを学びました。

読んでいると、個人がこのような施設を設立することは資金面でも運営面でも、いかに大変か分かります。
もともと資金が潤沢にあったわけではない山本さんがきぼうのいえ設立を実現できたのは、”人のため”という根っこがあるからだと感じました。
気持ちのある人の元には気持ちのある人が集まって、寄付や援助の手が伸びるたのだと思います。

奥に電柱を小さく描きました。

電柱を奥から手前の順で描いていきます。
それぞれの電柱の太さのバランスに注意しながら進めます。

右側の建物を描きます。

手前に近づくにつれて縦の線を内に傾けます。
風景に包まれている感じが出ます。

建物の壁の質感を描きます。
大きなディテールよりも、細かいところを描くのが楽しいです。

気持ちのある人には気持ちのある人が集まってくる、山本さんにとってのその大きな一人が以前オーラの泉で全国的に名前を知られるようになった江原啓之さんでした。

スピリチュアリストである江原さんは、ガン患者や大病を患い余命宣告を受け苦しむ方たちとの対話をきっかけにホスピスに興味をもち、自ら山本さんとの対話の機会を希望しました。
江原さんはきぼうのいえに次ぐ新しい施設”第2きぼうのいえ”設立のため、資金面で大変大きな援助をします。
しかし、気持ちを共鳴させ合いながら対話し、新たな施設を建設するための土地の確保まで進んだ頃、山本さんと江原さんの間には少しずつ溝ができていました。
その溝は、山本さんに対する江原さんの不信感へと変わり、第2きぼうのいえ設立に対する江原さんの気持ちはすっかり冷え切ってしまいました。

そうして第2きぼうのいえは実現しないまま白紙になってしまいました。
山本さんは再び失意のどん底へ突き落とされてしまいます。
そんな中ですが世間では、NHK『プロフェッショナル仕事』の流儀での取材や、きぼうのいえを題材にした映画などが制作され、きぼうのいえに注目が集まっていました。
しかし、さらに悲しい出来事が山本さんを待ち受けています。

WEB連載「久保沙絵子の勝手に表紙作ります。」は、毎週水曜更新!次回は、9/24(水)公開予定です!
著者

久保沙絵子

大阪在住、雑誌やウエブなどで活躍中のイラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチの作風が特徴。線の質感にこだわり、作品はすべて一発書き! 制作は、生命保険の粗品のスヌーピーのコップで白湯を飲みながら。また、街中でスケッチすることも。もし、見かけたらぜひ声をかけてください。

  • Instagram
    @saeco2525

※過去記事は、ハッシュタグ #久保沙絵子の勝手に表紙作ります をクリック

Share
  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
SAVVY10月号「あたらしい梅田 2025」
発売日:2025年8月22日(金)定 価:900円(税込)