kubosakiko_EC_8_1-100

イラストレーターの久保沙絵子が、毎月1冊をピックアップして、勝手にその本の表紙を制作する企画。イラストが描き上がるまでを追いかけます。8冊目は、末並俊司の『マイホーム山谷』。日雇い労働者の街・山谷を舞台に、貧困や労働、住まいの問題を描いた作品です。

久保沙絵子/イラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチが特徴。雑誌やウエブなどで活躍中。

日本三大ドヤ街のひとつである東京の山谷地区で、ホームレスや困窮者の最後の拠り所となるホスピス「きぼうのいえ」を設立した山本さんの姿を取材し描いたノンフィクション小説です。
信念を持って、困窮した人を支援する側だった山本さんが心を病み生活保護自給者となり、支援される側になっていった様子は、美談とは言い切れないけれど、人間らしい現実味をありありと含みつつ、貧困や孤立は決して人ごとではないと確信した時に、福祉という観点から、どういう社会であって欲しいかを考えるきっかけになる一冊です。

『マイホーム山谷』
著/末並俊司
小学館

日本三大ドヤ街は大阪の釜ヶ崎(あいりん地区)、横浜の寿町、そして今回の小説の舞台となる東京の山谷です。
ドヤというのは”宿”の逆さよみで、ドヤ街とは日雇い労働者が多く住む街のことを言います。
山谷には、戦後の高度経済成長期に日雇い労働者として働くたくさんの人たちが寝泊まりしていました。
そしてその人たちが歳をとり、現在山谷地区に住む人の9割が生活保護受給者です。
その山谷に”きぼうのいえ”を立ち上げ、山谷のシンドラーとも呼ばれた山本さんをライターの筆者が尋ねるところから物語は始まります。

わたしがスケッチや打ち合わせで東京に滞在する時にいつも宿泊する定宿が南千住にあります。
トイレとお風呂、洗面所は共用ですが、時期によっては一泊5000円でお釣りが出ます。
山谷という地名は1966年になくなってしまいましたが、山谷地区という言い方はドヤ街を表す呼び方として今も残っています。
山谷地区は位置的には南千住の南にあたります。
JR南千住駅のすぐそばには、江戸時代の三大刑場の一つである小塚原刑場がありました。
20万人を超える人が処刑されてきた場所で、駅を作るための工事の際たくさんの人骨が発掘されたという話もあり、ちょっとこわいですが、その処刑場だった場所を過ぎて5分ほど歩いたところにわたしの定宿があります。
そしてそこからさらに10分ほど歩いたところに山谷地区と呼ばれるところがあります。
わたしはマイホーム山谷を読み、山谷という場所に興味が湧き、これまで3回山谷に立ってスケッチをしたことがあります。
今回の絵は、スケッチする場所を探して山谷を歩きながら撮った写真を元に描き進めていきます。

電柱を描きました。内に傾けて描くことで、風景に包み込まれる感じを出したいです。

奥の建物を描いていきます。点を打って線のアタリを付けますが、そもそもアタリを迷うときもあり、いっぱい点がつきました。

窓を描きます。開けるとガラガラと音が鳴りそうな窓です。

隣の建物を描きました。何か分からない荷物がぼふぼふと積み上げられていて質感のアクセントになってくれています。

ベランダの上の木の葉を描きました。

困った人を救おうとする人のイメージは、優しく強く、そして穏やかなイメージがあります。
きっと筆者もそういうイメージを持って山本さんの元へ取材をしに伺われたのだろうと思います。
しかし実際に山本さんと対面すると、食べこぼしのシミがついた服に身を包み、異臭のこもった自宅に招かれ、それまでのイメージが一変してしまうような現実でした。
読み始めて割とすぐに、もうここから、”なんで??”という気持ちが起こり、引き込まれてしまいます。
思いもよらない山本さんの様子に、最初とは違った興味を持ち始めた筆者に、山本さんが「自分をサンプルにして山谷という街を表現して欲しい。」と申し出ます。
そして筆者は山本さんを通して山谷という街の課題と福祉の仕組みを探っていくことになります。

人を支えてきた人であったはずの山本さんは、統合失調症を患い、幻聴や幻覚、薬の副作用による気分の落ち込みに苦しめられていました。
そのため自分で生活することがままならず公的医療保険の「自立支援医療」に支えられ、訪問診療や宅配弁当の支給などの援助を受けていました。
しかし、それでも足りないサポートを担うような形で筆者は山本さんに寄り添い、取材を進めていくのでした。

WEB連載「久保沙絵子の勝手に表紙作ります。」は、毎週水曜更新!次回は、9/10(水)公開予定です!
著者

久保沙絵子

大阪在住、雑誌やウエブなどで活躍中のイラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチの作風が特徴。線の質感にこだわり、作品はすべて一発書き! 制作は、生命保険の粗品のスヌーピーのコップで白湯を飲みながら。また、街中でスケッチすることも。もし、見かけたらぜひ声をかけてください。

  • Instagram
    @saeco2525

※過去記事は、ハッシュタグ #久保沙絵子の勝手に表紙作ります をクリック

Share
  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
SAVVY10月号「あたらしい梅田 2025」
発売日:2025年8月22日(金)定 価:900円(税込)