interview_ MATSUYAONOE_HE-100

いつか古典演目になるような
新作歌舞伎を作り続けたい!

2023年に新作歌舞伎として上演された『刀剣乱舞月刀剣縁桐』。大人気ゲーム『刀剣乱舞 ONLINE』と歌舞伎の世界観を見事に融合させた新しい舞台表現が大きな話題を呼び、主人公の刀剣男士・三日月宗近を演じ、自身初となる演出も手掛けた尾上松也にも注目が集まった。初演から2年経ち、ついに第2弾の上演が決定。引き続き、主演・演出を勤める彼に意気込みを聞いた。

原作ファンと歌舞伎ファン
双方の思いを大事に舞台化

編集部(以下・編) 第2弾の制作が決まったときはいかがでしたか。
尾上松也(以下・松) 純粋にうれしかったです。ですが、第1弾を制作しているときから、一作だけで終わらせているようでは駄目だ、シリーズ化したいという思いで企画をしていましたが、ふたを開けてみないとどうなるか分からず、続けさせていただける保証もない。ですが、うれしいことに、『刀剣乱舞 月刀剣縁桐』を見て、自分も出たいと思ってくれた歌舞伎俳優の後輩たちもいましたので、なんとかそれはかなえたいと思っていました。今作では新たな刀剣男士のキャラクターも追加され、仲間が増えたことはとても心強いですし、作品としての幅も広がると感じています。
編 お客さまからの期待も大きいですし、第2弾ならではのご苦労もあるのでは?
松 物語そのものを新しくすることも大変ですが、同じ構成を二作品続けるのも味気ないと思い、構成を少し変えることにしました。前作では、劇中で踊るシーンが少しあったのですが、本当はもっと時間を取りたかったのですが、進行上難しくて。今作では芝居の後に歌舞伎舞踊をしっかりご覧いただける構成に変えています。宝塚歌劇団でいう、お芝居とレビューのような形になっておりますので、歌舞伎を見たことがない方にも楽しんでいただけたら良いですね。
編 お話を伺っていると、松也さんが『刀剣男士』の世界観をとても大事にしながら、歌舞伎に落とし込んでいるのが伝わってきます。
松 前作は歌舞伎ファンの方からすると、ありそうでなかったと思えるようなビジュアル造形や演出、原作ファンの方には歌舞伎のキャラクターになっても納得していただけるように意識をしていました。原作ファンの方の思いをくみつつ、どこかで裏切らないと面白くないとも思っていましたので、どこを裏切り、どこをリスペクトするかを慎重に選定し、双方の思いを融合して形にできる方向性を目指しました。映像技術などになるべく頼らず、できる限りアナログで、できる限り斬新な演出も心がけました。あと、新作を作るときはいつもそうですが、何百年後でも上演できるような作品を意識して、いつの間にか古典と言われるような作品にできればと考えています。
編 『刀剣乱舞』がきっかけで歌舞伎デビューした方も多かったようですね。
松 新作歌舞伎というのは、新しいお客様に足を運んでいただく糸口として大きな役割を果たしているかなと思いますし、それが醍醐味でもありますね。

企画、主演、演出を担う
逃げ場がないからより本気に

編 引き続き演出も担当されますが、役者とは違う面白さがありますか?
松 そうですね。新作のお稽古ですと、現場に行ってみないとみなさんがどんな風に演じられるか予想もつきません。その中で、自分がどの様に演出をしていきたいか、ビジョンをしっかり持って、ある程度想定をしていきますが、役者さんに演じていただくと捉え方も発想も違いますし、その方なりの動き方、演じ方が出てくるわけですよね。「こんな発想があるのか」ということに気付けると面白いなと思いますし、同時に自分が頭の中で思い描いた世界が目の前で具現化されているのは、神秘的で感動するところでもあります。役者と演出の大きな違いは、良い意味でもあるのですが、逃げ場がないということがとてもプレッシャーになりましたね。いつも逃げ場を探しているというわけではないのですが、企画も主演も演出もしておりますと、もし評判が良くなかった場合に誰のせいにもできない。そういう意味での八方塞がり感がとてもありました。だからこそ、本気でチャレンジしなくてはいけませんし、駄目だったときのショックも大きいですね。
編 その覚悟が前作の成功につながったのですね。本作は[南座]での公演になりますが、京都の街を楽しむ時間はありそうですか?
松 京都は撮影などで度々訪れてはいるのですが、[南座]で公演するのは10年ぶりになります。祇園には歌舞伎俳優と縁が深いお店もたくさんあり、私の父のお友達も何人もいらっしゃいます。父との思い出の場所を巡ったり、父にゆかりがある方とお話をしたりするのも、公演中の一つの癒やしになりそうで楽しみですね。
編 松也さんは甘いもの好きと伺いましたが、京都で気になるスイーツはありますか?
松 甘いものは確かに好きなのですが、リサーチして食べに行くタイプではなくて、基本的には決まったところばかり訪れることが多いです。ですので、逆にお薦めのお店があれば教えていただきたいくらいです。流行のスイーツより、自分が気に入ったものがずっと好きでして、基本的に生クリームが使われたおいしいスイーツはだいたい好物です。
編 松也さんのかわいらしい一面も伺えてうれしいです。稽古に公演とハードな日々が続くと思いますが、甘いものに癒やされながらがんばってください!

Profile
尾上松也
MATSUYA ONOE
1985年生まれ、東京都出身。六代目尾上松助を父に持ち、『伽羅先代萩』の鶴千代役にて二代目尾上松也として初舞台を踏む。20代の頃から歌舞伎自主公演を主宰するなど、歌舞伎俳優として実力を磨く。映画やミュージカル、NHK大河ドラマなどのテレビドラマなどでも独特の存在感を放っている。

STAGE INFORMATION
歌舞伎『刀剣乱舞 東鑑雪魔縁』
2025年8月15日(金)〜26日(火)

『刀剣乱舞ONLINE』を原案とし、若手歌舞伎俳優が歴史上のさまざまな名刀から姿を変えた“刀剣男士”として活躍する。今作の舞台は鎌倉時代。3代将軍の源実朝が鶴岡八幡宮で暗殺された史実を下敷きに、刀剣男士と時間遡行軍の戦いを歌舞伎ならではの演出を取り入れながら華やかに描く。

©︎NITRO PLUS・EXNOA LLC/歌舞伎『刀剣乱舞』製作委員会

会場/南座
原案 /「刀剣乱舞 ONLINE」(DMM GAMES/NITRO PLUS) 
脚本/松岡 亮 演出/尾上菊之丞、尾上松也 
出演/尾上松也、中村歌昇、中村鷹之資、中村莟玉、尾上左近、上村吉太朗、河合雪之丞、中村獅童 ほか
料金/一等席15,500円、二等席8,500円、三等席 5,500円(全席指定)
問い合わせ/0570-000-489(チケットホン松竹)
[歌舞伎『刀剣乱舞』 公式サイト]

写真/木村華子 取材・文/西村円香

※この記事は2025年9月号からの転載です。記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認の上お出かけください。

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