イラストレーターの久保沙絵子が、毎月1冊をピックアップして、勝手にその本の表紙を制作する企画。イラストが描き上がるまでを追いかけます。6冊目は、7月は暑い!涼をとりたい……!ということで、貴志祐介のホラー小説『黒い家』です。

久保沙絵子/イラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチが特徴。雑誌やウエブなどで活躍中。
怖すぎるホラー小説です。
幽霊の怖さではなくヒトコワ系です。
家にこの本があることがもう、不吉で怖いと思ってしまうほどに怖いです。
毎日が日常的すぎてそのありがたさが薄れかけた時に読むと、何事もない日々がどれほど安全で幸福かを感じ直すことができます。
暑い夏が始まる気配、この1冊で涼をとるのはいかがでしょうか?
(ゴア要素が強めなので苦手な方はご注意を⚠︎)
著/貴志祐介
KADOKAWA(角川ホラー文庫)
結局一番怖いのは人やわ……。と、しみじみ思いながら読み進めていくと、物語はどんどん陰鬱さが濃くなっていきます。
主人公は、菰田家の人間が保険金目当てで自分の子どもを自殺に見せかけて殺害したと確信します。そして、その疑惑を警察に伝えます。
息子の死亡保険金がなかなか下りないことを主人公のせいだと認識した菰田家の人物は、陰湿で心に重くのしかかるさまざまな方法で主人公を追い詰めていきます。
無言電話から始まった菰田家の脅威は酷さを増しながら、主人公の恋人にまで被害を及ぼします。
菰田家の息子は他殺ではなく自殺であったという警察の判断が下され保険金が下りた後も、菰田家の人間は、さらに保険金欲しさに配偶者の両腕を切り落としたり、なんだかとんでもないことをつぎつぎと行っていきます。
菰田家の人たちの、保険金に対する思いの強さは常軌を逸しています。
思いの強さといえば……呪物なんかも人の思いが特にこもったものですね。
世界の呪物を集める、呪物コレクターの田中俊行さんが好きで、本を読んだりYouTubeを見たりしていますが、結局その類の、あらゆる畏怖の根源は人の思いから来ているのだということを実感します。
あの人が苦しみますように。と顔、胸、股に大量の釘を打たれた藁人形や、亡くなった人の体液や骨や皮を使った呪物。いろんな呪物が紹介される、田中さんの部屋紹介のYouTubeを(めずらしく)おいしく作れた親子丼を食べながら見ていたのですが、なんだか、うっ。と込み上げるものがありました。
呪物は、その物自体が恐ろしいのもあるし、その思いが恐ろしいのもあるし、奥深いなぁと思います。
本当は、身の周りのあらゆるものが奥深いのだと思います。呪物もそうだし、例えば、綿棒なんかだって、掘ってみると奥深いのだと思います。あらゆるものが奥深いけれど、掘っていくきっかけがなかったり奥深さを感じるきっかけがなかったりして、興味にまで到達しないことの方が多いと感じます。なので、奥深い、興味深いと思えばなるべく自分から寄っていきたいと思っています。
今月、田中さんが呪物の展示を大阪で開催されます。
絶対に見に行こうと思っておりま……せん。田中さんの呪物は”ホンモノ”なので、実際に見てしまうと、自分の心や身体や身の周りのいろいろな所に影響が出そうな気がするのです。
そんな気がしている時点でもうほんとに実際そうな気がしています。
“興味があることにはなるべく自分から寄っていきたいと思っています。”と書いたばかりですが、人の思いが陰の方にこもった事柄には、そんな気持ちに勝る恐ろしさがあります。黒い家の主人公も、菰田家に興味を持ってしまったことが運の尽き。さらに、近づいてしまったことが悪夢の始まりでした。自分の感性で嗅ぎ分けて、近づいたり距離を保ったりしていきたいところです。
余談ですが、田中さんのオリジナルTシャツが欲しくて、メルカリで見つけていいね♡をつけて検討中です。

久保沙絵子
大阪在住、雑誌やウエブなどで活躍中のイラストレーター。風景画をはじめ、超絶細密なタッチの作風が特徴。線の質感にこだわり、作品はすべて一発書き! 制作は、生命保険の粗品のスヌーピーのコップで白湯を飲みながら。また、街中でスケッチすることも。もし、見かけたらぜひ声をかけてください。
- Instagram@saeco2525
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