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伝統と革新の両輪で、
八代目菊五郎の役目を全うする

 江戸歌舞伎を代表する「音羽屋」の大名跡を襲名した八代目尾上菊五郎。確かな演技力で芸を継承するだけでなく、漫画やゲームを題材にした新作歌舞伎を企画するなど、新たな挑戦も続けてきた彼は、どんな覚悟を持って襲名披露の舞台に立つのだろうか。

古典を大切にしながら、
創意工夫で楽しい歌舞伎を

編集部(以下・編) 八代目尾上菊五郎だけでなく、ご子息の丑之助さんも六代目尾上菊之助を襲名され、本当におめでとうございます。襲名については、すごくカジュアルに告げられたそうですね。
八代目尾上菊五郎(以下・菊) 1年ほど前に、父である七代目尾上菊五郎から「おめえ、継ぐか」と言われて。最初は何のことかわからなかったのですが、もしかして名跡のことかな?と。でも、しばらくはその重みを感じられませんでしたね。せがれにも同時に菊之助を継がせてみてはどうかと言ってもらい、せがれはまだ丑之助でいたいとのことでしたが、父が口上に立ち、3人で襲名できるのは今のタイミングしかないから、一緒にがんばってみないかと伝えたらがんばると言ってくれたので、これまで共に稽古をしながら進んで参りました。
編 まだ11歳なのに菊之助さんもご立派ですね。
菊 初代が約300年前に菊五郎を名乗って以来、創意工夫を重ねてお客様に楽しんでいただける歌舞伎、そして普遍性や時代性が役者を生かせる戯曲を突き詰め、それが今の古典歌舞伎になったという演目もたくさんあります。常に伝統と革新の両輪を成してきたのが尾上菊五郎の名前ですので、その名前の家に生まれたからには、本道を守りつつ、古典の魅力を大切にしながらも、多くのお客様に見ていただける入口を作るということも、菊五郎の役目という思いで、八代目を襲名させていただきたいと思います。

小さな幸せを積み重ね、
心を常に晴れの状態に保つ

編 歌舞伎だけでなく、テレビドラマでも印象的な役柄を演じておられます。4月末までNHKの朝ドラ『カムカムエヴリバディ』が再放送されていたので、映画スターの桃山剣之介を拝見していました。
菊 彼のせりふに「暗闇でしか見えぬものがある」というせりふがありますが、脚本家が私の人生を見ていたのでは!?と思うくらい、しっくりきましたね。私はパッと見て、すぐできる人間ではなくて、結構暗闇にいる時間が長いというか、「やっぱりできない」と思う時間が長く、いまだに悩むこともある。でも、その暗闇に行かないと見出せないものがあるし、決して暗闇のままではなく、明るい方に道が開けているはず。以前、矢沢永吉さんが「どんなにつらいことがあっても、一瞬ハッピーなことがあれば、その次の一瞬からまたがんばれるんだよ」とおっしゃっていて。でも、そのハッピーを見つけられなければずっと暗闇が続く。だから、辛いことやイヤなこと
があっても、常に心は晴れにして、笑顔でいられるようにしないと。僕はコーヒーが好きなので、街を散歩してカフェに入ってみたりして、幸せな時間を過ごすことで気分転換をしています。
編 暗闇を感じておられるなんて、とても意外でした。ちなみに、大阪に来られたときは、どんなところで幸せ時間を過ごされていますか?
菊 お好み焼きは絶対食べに行きますし、帝塚山に本店がある[ポワール]のシュークリームも大好き。コーヒーなら日本橋の国立文楽劇場のそばの[バリスタマップ]。こちらのエスプレッソトニックを飲むと、脳の疲労が取れるんですよ。西心斎橋に移転したので、大阪のホットスポットになるのでは? 人形浄瑠璃文楽 太夫である竹本織太夫さんが教えてくれる大阪グルメや文化も楽しみで、僕、大阪が大好きなんです。大阪の方は、歌舞伎ものめり込んで観てくださっていて、よく笑ってくださるし、泣いてくださる。

歌舞伎は日本文化が集結した
エンターテインメント

編 読者の中には、歌舞伎に興味はあるけどまだ見たことがない人も。どんな風に楽しめばいいか、教えていただけますか?
菊 せりふは難しいかもしれないですが、他人との縁を大事にするなど日本人の根底に流れるアイデンティティーを物語にして残しているのが歌舞伎の古典演目なので、全然特別なものではないんです。豪華な音楽や衣装を用いながら、染み入る心情を描く。歌舞伎は日本の文化を結集したエンターテインメントだと思っていただければ。例えば、襲名披露での演目『髪結新三』は町人社会や世相風俗を題材にした世話物なので、大筋を知っていれば話も分かりやすいし、『羽根の禿』『うかれ坊主』は舞踊なのでせりふがなく、だ見たことがない人も。どんな風に楽しめばいいか、教えていただけますか?
菊 せりふは難しいかもしれないですが、他人との縁を大事にするなど日本人の根底に流れるアイデンティティーを物語にして残しているのが歌舞伎の古典演目なので、全然特別なものではないんです。豪華な音楽や衣装を用いながら、染み入る心情を描く。歌舞伎は日本の文化を結集したエンターテインメントだと思っていただければ。例えば、襲名披露での演目『髪結新三』は町人社会や世相風俗を題材にした世話物なので、大筋を知っていれば話も分かりやすいし、『羽根の禿』『うかれ坊主』は舞踊なのでせりふがなく、役者の身体力を楽しんでいただけます。『土蜘』も派手な色彩や蜘蛛の怪しさを感じられるので歌舞伎入門としても良いと思います。
編 確かに、そう考えると気負わず見に行ける感じがします。これから八代目菊五郎としてこんなことをやりたいと思っておられることはありますか。
菊 まずは音羽屋の家の芸である「新古演劇十種」の中で、なかなか舞台にかからない演目を復活させて、次の菊五郎につなげたい。もう一つは新作歌舞伎を作って歌舞伎の魅力を伝える入口にしたい。そして、父の七代目菊五郎と岳父の中村吉右衛門が大事にしてきた古典演目を継承していくこと、この三つが目標ですね。
編 新しい歌舞伎の世界を見せてくださることを楽しみにしています!

Profile
八代目尾上菊五郎
HACHIDAIME-ONOEKIKUGORO
1977年生まれ、東京都出身。「音羽屋」に生まれ、艶やかな女方だけでなく立役としても定評あり。1984年に六代目尾上丑之助、1996年に五代目尾上菊之助、2025年5月に尾上菊五郎を襲名。『風の谷のナウシカ』、『ファイナルファンタジーX』を歌舞伎として上演するなど、企画力も光る。

STAGE INFORMATION
『松竹創業百三十周年
尾上菊之助改め 八代目 尾上菊五郎襲名披露
尾上丑之助改め 六代目 尾上菊之助襲名披露
七月大歌舞伎』
7月5日(土)~24日(木)

江戸歌舞伎の名門音羽屋の大名跡、八代目尾上菊五郎と六代目尾上菊之助を親子で同時襲名する記念すべき舞台。昼の部では、切ない恋模様を描いた名作『新版歌祭文~野崎村』や『羽根の禿』『うかれ坊主』『髪結新三』、夜の部では『熊谷陣屋』や襲名口上披露と『土蜘』。音羽屋の新しい船出をその目でぜひ。

会場/大阪松竹座
出演/八代目尾上菊五郎、尾上菊之助、片岡仁左衛門、中村歌六、中村鴈治郎 他 ※昼・夜の部で演目出演者は異なる
料金/一等席22,000円、二等席11,000円、三等席6,000円(全席指定)
問い合わせ/06-6214-2211(大阪松竹座)
www.kabuki-bito.jp/theaters/osaka/play/892

写真/沖本 明 取材・文/西村円香

※この記事は2025年8月号からの転載です。記事をご覧になったタイミングでは変更となっている可能性があります。最新情報をご確認の上お出かけください。

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